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過労死に民事損害賠償、労災保険との併給調整は?

      2016/02/21

フォーカスシステムズ事件 【最大判 2015/03/04】
原告:被害者Aの相続人  /  被告:会社

【請求内容】
損害の元本から控除すべきとした二審判決は、最高裁小法廷判決(「平成16年判決」H16.12.20)に反するとして相続人が上告。

【争  点】
相続人が受給する労災保険法上の遺族補償年金との間で損益相殺的調整を行うべき損害と、填補されたと評価すべき時期。

【判  決】
遺族補償年金は遺族の被扶養利益の喪失を填補することを目的とし、遅延損害金とは目的を異にするとして、棄却。

【概  要】
長時間労働等による心理的負荷の蓄積により精神障害を発症した被害者Aが、正常な判断能力を欠く状態で過度の飲酒の上、急性アルコール中毒から心停止に至り死亡したのは、会社の安全配慮義務違反として、原告側の請求通り損害賠償支払いを認めたが、相続人が受給する遺族補償年金等は、不法行為の時に填補されたものとして、逸失利益の消極的損害の元本との間で損益相殺的な調整をすべきとした二審は、平成16年判決に反するとして、原告側が上告。

【確  認】
■民法第491条1項
債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。
■最大判(H5.3.24)損害賠償
不法行為と同一の原因によって被害者又はその相続人が第三者に対して損害と同質性を有する利益を内容とする債権を取得した場合は、当該債権が現実に履行されたとき又はこれと同視し得る程度にその存続及び履行が確実であるときに限り、これを加害者の賠償すべき損害額から控除すべきである。

 

【判決のポイント】

■損益相殺的な調整を行うべき損害
被害者が不法行為により死亡した場合、その損害賠償請求権を取得した相続人が労災保険法上の遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、損害賠償額を算定するに当たり、その填補の対象となる被扶養利益の喪失による損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する逸失利益等の消極損害の元本との間で、損益相殺的な調整を行うべきである。
■損害が填補されたと評価すべき時期
被害者が不法行為により死亡した場合、その損害賠償請求権を取得した相続人が労災保険法上の遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、その?補の対象となる損害は不法行為の時に?補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが相当である。
■平成16年判決からの変更点
「損害賠償債務は事故の日に発生し、既に遅延損害金が保険金支払日までの間に発生しているのであるから、保険金支払い時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは先ず発生済み遅延損害金に充当されるべきである。」
とした最高裁小法廷「平成16年判決」を否定し、
(1)遺族補償年金は、それと同性質であり、かつ、相互補完性を有する逸失利益等の消極損害の元本との間で、損益相殺的な調整が行われるべきであり、遅延損害金との間では調整は行われない。
(2)遺族補償制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、不法行為時に填補がされたものと法的に評価して、損益相殺的な調整をすることが相当であり、填補された損害についての遅延損害金は発生しない。

【SPCの見解】

被害者Aは平成18年9月15日に解離性遁走を発症し、翌16日に急性アルコール中毒にて死亡。平成19年3月に労災申請が受理され、同10月に労災認定。平成20年1月に訴訟を提起し、平成27年3月の最高裁判所の大法廷での判決までのおよそ8年半に渡る長い戦いとなった。
上告理由で取り上げられた「平成16年判決」の他に、二審判決同様の判決が下された最高裁小法廷が数件あるが、今回は大法廷での判決であり、今後の裁判にも適応されると思われる。
不法行為に基づく損害賠償債権の損害額の算定は、法的取扱において同一で、同一の効果を与える場合、公平の見地から今回のような判断に至ったものと考えられる。

労働新聞 2015/11/09 / 3040号より

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