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性同一性障害 制限は違法

   

経済産業省事件 東京地判令元.12.12

戸籍上の性別が男性で、自らを女性と認識するトランスジェンダーの職員が、女性トイレの使用を制限されたため、原告はトイレに係る処遇は違法であるなどとして、国に対して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求め訴訟提起した。

 

原告は経済産業省にて勤務する国家公務員である。幼少時より、自身の身体的性別が男性であることに強い違和感を感じており、平成10年頃からは女性ホルモンの投与や性同一性障害のカウンセリングを受けるようになり、平成11年頃にはa医師より、性同一性障害の診断を受けた。

また、平成21年頃にはe医師からも性同一性障害の診断を受けたが、性別適合手術までは行っていない。よって戸籍上は男性のままである。

 

平成21年頃に、原告は職場のbに対して性同一性障害であることを伝え、c調査官らとの面談において、女性職員として勤務すること、女性用休憩室や女性用トイレの使用を認めることなどを要望した。

しかし経産省は、女性トイレの一部の階の使用を認めず、原告が提訴した。

【判決のポイント】

(1)性別は社会生活や人間関係における個人の属性の一つとして取り扱われており、個人の人格的な生存と密接かつ不可分のものであって、個人がその真に自認する性別に即した社会生活を送ることは重要な法的利益として保護され、国家賠償法上も保護される。

男女別のトイレを設置し、管理者(経済産業省)からその真に自認する性別に対応するトイレの使用を制限することは、個人の法的利益の制約にあたる。

 

(2)原告は性同一性障害の専門医であるe医師から、適切な手順を経て性同一性障害と診断された者であり、女性ホルモンの投与や外見、行動様式の点を含めて、女性として認識される度合いが高いということができる。

この者が、他に危害を加える可能性は客観的に低く、トラブルが生じる可能性は、せいぜい抽象的なものにとどまるものであると、経済産業省は把握できた。

民間企業においてもトランスジェンダーの従業員に対して、制限なく女性トイレの使用を認めた例が6件あり、性自認に応じたトイレ等の男女別施設の利用を巡る国民や社会の受け止め方に相応の変化が生じている。

 

以上より、経済産業省は庁舎管理権の行使にあたって、果たすべき注意義務を怠ったとして、国家賠償法上の違法の評価は免れない。

【SPCの見解】

性別は社会生活や人間関係における個人の属性の一つとして取り扱われており、個人の人格的な生存と密接かつ不可分のものであって、個人がその真に自認する性別に即した社会生活を送ることは重要な法的利益として保護されるとした点に特徴がある。

また、直ちに性同一性障害を有する者に対し、自認する性別に即した待遇をしないことの違法性を認めたわけではない。

 

厚労省のモデル就業規則では、性別に基づく差別の禁止とともに、「性的思指向」や「性自認」による差別的言動も禁止すると明記されており、一般企業でも同様に明記されつつある。トランスジェンダーに対する社会の受け止め方にも、変化が生じてきているのである。

本件の女性トイレの使用制限だけでなく、トランスジェンダーの方々が社会で直面する困難なことは多々あります。トイレの他にも更衣室の利用や、社員寮の利用に関しても配慮が必要になってくるかもしれません。

それと同時に、同じ職場で働く他の女性従業員(場合によっては男性従業員)の協力や理解も必要となるため、難しい問題でもあります。

本件のトイレの使用に関しても、他の女性従業員が反発する場合は、トランスジェンダーの従業員と十分に協議し、最初は多目的トイレの使用か求めながら、段階的に他の女性従業員との接触・交流を増やして理解を得ていく事が望ましいと考えます。

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