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なぜ、懲戒解雇事由に該当しても解雇無効となってしまうのか?

      2016/02/23

日本通信(懲戒解雇)事件 【東京地判 2012/11/30】
原告:労働者Ⅹ  /  被告:会社Y

【請求内容】
労働者Ⅹは、懲戒解雇を懲戒権の濫用により無効として地位確認等を求めた。(Y社は損害賠償請求を反訴)

【争  点】
社内ネットワークシステムの管理者権限の抹消に応じないことを理由とした懲戒解雇は解雇権濫用にあたるか?

【判  決】
Ⅹの行為は重大だが、実害がなく、弁明の機会も付与していないため懲戒権濫用として無効。Yの反訴は棄却。

【概  要】
通信サービスの会社であるY社が、退職勧奨を拒否して自宅待機中の労働者Ⅹが社内ネットワークシステムの管理者権限を不正に保有していることに気づき、Ⅹに管理者権限抹消を求めた。しかしⅩは説得に応じず、業務命令も拒絶したため、これを理由に懲戒解雇した。Ⅹは懲戒権濫用により無効であるとして提訴したが、Y社はこれを争うとともに、「Ⅹの管理者権限不正保持によりシステムの再構築などを余儀なくされ、多大な損害を被った」として損害賠償請求した。

【確  認】
【懲戒処分の有効要件(労働契約法第15条)】⇒懲戒解雇
①当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らすこと
②懲戒事由に「客観的に合理的な理由」があること。
③処分に「社会通念上の相当性」が認められること。
【解雇の有効要件(労働契約法第16条)】⇒普通解雇
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

【判決のポイント】

1)Ⅹに対する懲戒解雇に「合理的理由」はあったのか?(上記「確認」欄の②を検討)
懲戒解雇をするには、ただ単に就業規則規定の「懲戒解雇事由」に該当するというだけでは足りず、より実質的に、行為の性質・態様その他の事情に照らし、①重大であって、かつ②企業秩序を現実に侵害した、あるいはその具体的・現実的な危険性があるという、高度なレベルのものが求められる。本件では、確かにⅩの行為は重大であるが、社内のセキュリティシステムに実害が生じたわけではなく、侵害の具体的かつ現実的な危険性があったとは認められない。

2)Ⅹに対する懲戒解雇に「相当性」はあったのか?(上記「確認」欄の③を検討)
管理者権限の重要性を考えると、これを不正に保持し、抹消に応じないⅩの態度は、それ自体が「企業秩序を現実に侵害する行為である」という見方もできるが、懲戒解雇については、より慎重な判断が求められる。
本件の問題点は、Ⅹに「弁明の機会」を与えないまま懲戒解雇手続きが進められたことが問題であり、(懲戒解雇が刑罰に類似する制裁罰である以上)「看過し難い手続きの瑕疵」により、相当性に欠けるというべきである。

3)懲戒解雇が無効になった場合のリスクを回避するため「普通解雇の意思も含む」と解釈することはできるか?
懲戒解雇より普通解雇の方が認められやすいことから、後から「実は普通解雇の意思表示も含んでいた」とし、(無効行為の転換法理という)普通解雇に転換して主張することはできるか?という点については、「懲戒解雇」と「普通解雇」は法的性質が異なるため、(明らかに明示されていた場合を除き)原則許されないと判断された。
※因みに、たとえ普通解雇であると解釈しても、即日解雇の必要性・緊急性はないとして、無効と判断している。

【SPCの見解】

■「Ⅹの行為自体は重大で、不法行為を構成する」とまで言いつつも、結論としてⅩの懲戒解雇が無効となったのは、「実害がなかったこと」「弁明の機会を付与しなかったこと」の2点にある。他の判例では、弁明の機会の付与は必須ではないという趣旨のものも見受けられるが、解雇無効となるリスクが存在する限りは、弁明の機会は必ず与えるようにしておく方が懸命であろう。また、懲戒解雇は労働者の不利益が大きいため認められにくいのが一般的であることから、(退職してもらうことが一番の目的であるならば)無理に懲戒処分とするのではなく、その後のトラブル回避のため普通解雇や退職勧奨に留めておくことが無難である。

労働新聞 2013/10/07/2939号より

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