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■平成26年度地方労働行政運営方針を読む(金澤)

      2016/02/21

暑いですね。非常に暑いです。
しかし、山も海も苦手な私は、どこに涼を求めれば良いのでしょうか・・・なんて考えてしまいます。
ホラー映画?・・・も苦手ですすみません。我慢します。

さて今回は、4月1日付で厚生労働省が策定した「平成26年度地方労働行政運営方針」について見ていきたいと思います。
「地方労働行政運営方針」とは、厚生労働省が毎年策定する運営方針で、各都道府県労働局はその内容を踏まえて、各々「行政運営方針」を策定します。つまり、これを把握することで、労働基準監督署が今年度、何を重視して定期監督等を実施していくかが分かります。

その内容のうち、「労働基準行政の重点施策」という項目について、前年と比較して注目すべきポイントを見ていきたいと思います。読み方としましては、例えば前年に引き続き同じ文章があれば、それは前年に引き続き重視していることですから、注意が必要ですし、新たに追加された項目があれば、今年から取組み始めるものということで、気合を入れて監督してくることが予想されます。逆に昨年まであって、今年なくなっている文章については、今年はそれほど重視しない(既に昨年である程度達成できた)ということが分かります。

目次は以下のようになっています。
3 労働基準行政の重点施策
(1)労働条件の確保・改善対策
(2)最低賃金制度の適切な運営
(3)適正な労働条件の整備
(4)労働者が安全で健康に働くことができる職場づくり
(5)労災補償対策の推進
(6)労働基準監督署の業務の適切な運営、各種権限の公正かつ斉一的な行使

昨年に引き続き、最も重視されていると考えられているのが、「過重労働による健康障害防止に係る監督指導」です。つまり長時間労働による過労死の予防ですね。長時間労働とは何時間のことをいうのか?という点については、『脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について』(平成13年12月12日付通達)による「発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合」という基準を参考にしてください。これを超える実態がある場合は、大至急、労働時間を減らすための対策をとりましょう。

また、36協定の特別条項による時間外労働が上記過労死ライン以上で定められている場合も、監督署に「この会社、要注意だな」と思われてしまうので、必要以上に長い時間を書くのはリスクが高いといえます。(かといって、実態よりも少ない時間を書くのは労基法違反なので勿論ダメです。)

では、今年になって追加された項目をピックアップしてみたいと思います。

1)若者の「使い捨て」が疑われる企業等への取組
いわゆる「ブラック企業」対策です。今後、「労働条件相談ダイヤル(仮称)」の設置による夜間や休日における相談体制の整備や「労働条件相談ポータルサイト(仮称)」の設置及び大学等における周知啓発セミナーが予定されています。
長らく続く不況により、若者は「就職できただけでも有難い」と違法な状態でも甘んじて受け入れてしまったり、そもそも法律を知らないことで違法状態に気付かず、我慢して疲弊して、結局現場を去ってしまうという事態が発生していました。そこで、就職前から若者に正しい知識・情報を教えることにより自らの義務と権利について認識し、実際に就職したのがブラック企業だった場合でも、ちゃんと助けを求めることが出来るような体制を整えようということです。
「労働条件相談ダイヤル(仮称)」で受け付けた相談や情報については、所轄の労働基準監督署へ取り次ぎ、事案の内容に応じて監督指導等を実施されることになっていますので、これが推進されれば、ブラック企業は生き残っていけないようになっていくかもしれません。

2)労働時間法制の見直し
働いた「時間」に関係なく「成果」に応じて賃金を払う新しい労働時間制度が検討されています。「ペイフォーパフォーマンス」ということですね。しかしこれは、かねてより「残業代ゼロ法案」と批判されている「ホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間法制の適用除外)」と呼ばれる制度と類似しており、長時間労働による過労死を加速させる恐れがあるとして強い反発を受けています。確かに日本の長時間労働は問題ですが、成果主義の賃金制度は日本にはなじまないとされていますし、実際、自分の仕事が終わったからといって、所定労働時間に関係なくさっさと帰れるか?といわれると、それもなかなか難しいと思います。結局「長時間労働はなくならないのに、残業代はなくなった」という最悪の結果が予想されます。
多くの反発を受けたことで、結局新制度の対象者は、「職務が明確で高い能力を有する者」で、「少なくとも年収1000万円以上」の従業員とすることになりました。これは、かなり限られた人が対象になりそうですね。

3)「多様な正社員」モデルの普及・促進
「限定正社員」「ジョブ型正社員」と呼ばれる雇用形態を導入しようという取り組みが始まっています。現在は「正社員」と「非正規正社員」に二極化してしまっており、これを何とかしようということで、考えられました。
正社員に法的な定義はありませんが、一般的に「無期雇用」「フルタイム勤務」「直接雇用」を特徴としています。雇用は安定しており賃金も高めですが、それと引き換えに「残業・転勤・異動が断れない」といった不自由さを抱えています。これは、ワークライフバランスを重視する人や、特殊な事情を抱える人にとって、非常に働きにくい雇用形態であるといえます。かといって、非正規社員は「有期雇用」「短時間労働」「間接雇用」であり、不安定であり低賃金です。これではあまりに極端ですし、このままでは安倍首相が推し進める「女性の活躍」も実現不可能でしょう。
そこで、正社員と非正規社員の中間として、「職務」「勤務地」「労働時間」を限定した「限定正社員」という発想が出てきたのです。「職務限定」ならば、自分の希望しない職種に変更させられることがなくなりキャリアを一本化できますし、「勤務地限定」なら転勤の心配がないため持ち家を持ちやすいとか、子供の転校を心配することがないというメリットがあります。「労働時間限定」ならば、育児・介護・病気療養中の方でも自分の生活に合った働き方ができます。
但し、例えば勤務地限定であるということは、勤務する支店が廃止されることになった場合は、正社のような転勤等による雇用確保対策をされずに解雇される可能性が高いです。また、正社員と同様の仕事をしていても基本給が正社員よりも低く設定されることが多いでしょう。
労使双方にメリットデメリット両方ありますが、しっかり運用すれば、より良い労働環境が作れるのではないでしょうか。

今回は一部のみ掻い摘んで取り上げましたが、他にも安全衛生関係の取組みも掲載されていますので、一度読んでみてくださいね。

▼平成26年度地方労働行政運営方針
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10401000-Daijinkanbouchihouka-Chihouka/0000042655.pdf

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