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悪質な残業代不払いは、不法行為で時効3年なのか?

      2016/02/23

杉本商事事件 【広島高判 2007/09/04】
原告:退職した社員  /  被告:会社

【請求内容】
不法行為で3年分の未払残業代を請求した第一審が棄却され、2年分の支払命令に留まった為、原告が控訴した。

【争  点】
悪質な残業代の不払いは、労働基準法115条の時効2年ではなく、不法行為による時効3年が適用されるのか?

【判  決】
被告の労働時間適正把握義務懈怠は故意に基づく悪質なもので、不法行為により過去3年分の割増賃金支払い命令。

【概  要】
退職した社員Xが、元勤務先の残業代不払いは不法行為として、過去3年分の残業代支払いを求めて提訴した。会社は一定の例外を除き、通常の残業に関しては「自己啓発」「個人都合」として、時間外勤務手当を支払っておらず、平成16年に労働基準局に指摘を受けるも、その後も特に改善することはなかった。労働者の労働時間も把握しておらず、途中、出勤簿に記載するようにしたものの、記載すべき時刻は営業所長から指示された時刻を記載していた。

【確  認】
【賃金請求権の時効は何年なのか?】 ⇒原則は労基法を適用。悪質な場合のみ不法行為を適用する場合もある。
<労働基準法115条>(時効)
この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は二年間、この法律の規定による退職手当の請求権は五年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
<民法724条>(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

 

【判決のポイント】

【残業代未払いが不法行為となるのはどういった場合か?】
通常、残業代未払いは単なる「金銭債務の債務不履行」であり、労基法115条によりその時効は2年であるとされているが、なぜ本件は、(債務不履行に留まらず)不法行為となってしまったのか?理由は以下のとおりである。
<確認された事実>
①会社は、全員参加の営業所会議等の一定の場合を除き、通常の残業は「自己啓発」「個人都合」として時間外
勤務手当を支払っていなかった。
②平成16年に労働基準局の巡回検査の際に未払残業代について指摘を受けるも、その後特に改善されなかった。
③出勤簿には出退勤の時刻が記載されておらず、従業員の労働時間を把握する方法はなかった。その後出退勤時刻を記載するように改めたものの、記載する時刻は営業所長の指示した時刻であり、実態とは異なっていた。
④労働者にも残業を申告する制度は存在したが、各自から提出されることはほとんどなく、従来から支払われていた営業所会議等の残業代申請については、本人ではなく経理担当者が作成する場合が多かった。
⑤会社の始業時刻は午前8時30分からであったが、午後8時から清掃・体操・朝礼を行うことが通例となっていた。
<事実に基づく裁判所の判断>
1)営業所の管理者は、部下の時間外勤務を黙示的に命令していたといえる。
2)営業所の管理者は、部下の勤務時間を把握し、残業代請求を行わせる義務に違反したと認められる。
3)労働者らの勤務形態が変則的で、労働時間の確認が困難だとか、私的な居残りがあったという事情はなかった。
⇒ 以上のことから、労働者は本件残業代未払いについて、不法行為を原因として会社に請求することができる。

【SPCの見解】

■通常、残業代未払いは労基法115条の問題として争われることがほとんどであったが、本件は「不法行為に該当するか否か」が争点となった事案である。 不法行為とは「故意または過失によって他人の権利・利益などを侵害すること」である。残業代未払いは、少なくとも過失によるものであると思われるが、その全てが不法行為として認められるわけではない。(実際に本件の第一審でも、不法行為については棄却されている)明確な要件があるわけではないが、判例によると、本件のように会社側が悪質な残業隠しを画策したり、労働基準監督から是正勧告をうけても全く是正しないなどの悪質なケースのみに認められるというのが現状であろう。

労働新聞 2008/6/16/2685号より

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