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派遣先会社は派遣社員からの団体交渉に応じる義務があるか?

      2016/02/23

兵庫県労委(川崎重工業)事件 【神戸地判 2013/05/14】
原告:労働組合X  /  被告:県労委

【請求内容】
派遣先に団交拒否され、救済申し立ても棄却されたため、本件棄却命令を不服としてその取消しを求めた。

【争  点】
派遣先会社は、派遣社員からの団体交渉に応じないと不当労働行為となるか?(労組法上の使用者性の有無)

【判  決】
本件派遣先A社は「派遣先企業が労組法上の使用者となる場合」に当てはまらないため、不当労働行為ではない。

【概  要】
派遣先A社に勤務していた派遣社員らが、操業度が落ち込んだことを理由として派遣契約を中途解約された。派遣社員らは労働組合Xに所属する組合員であったため、組合XはA社に対して「派遣受入期間の制限に抵触しているため、労働契約の申込義務がある(労働者派遣法第40条の4)」として、派遣社員らの直接雇用を求めて団体交渉を申し入れたところ拒否された。組合Xは処分行政庁に対し不当労働行為として救済申し立てを行ったが、棄却された。

【確  認】
【派遣先会社に雇用契約の申込みが義務付けられる場合】(労働者派遣法第40条の4、5)
派遣先に派遣労働者に対する雇用契約の申込みが義務付けられるのは、以下の2つの場合である。
(1) 派遣受入期間の制限のある業務について、派遣受入期間の制限への抵触日以降も、派遣労働者を使用しようとする場合(労働者派遣法第40条の4)
(2) 派遣受入期間の制限のない業務について、同一の業務に同一の派遣労働者を3年を超えて受け入れており、その同一の業務に新たに労働者を雇い入れようとする場合(労働者派遣法第40条の5)

 

【判決のポイント】

1)なぜ派遣先会社は派遣労働者からの団交申入れを拒否しても不当労働行為にならないのか?
不当労働行為禁止規定(労組法7条)における「使用者」とは、一般に「労働契約上の雇用主」をいうため、派遣先は通常、労組法上の「使用者」には当たらないが、同条の「団結権の侵害にあたる行為を是正して正常な労使関係の回復を目的としている」ことから、以下の場合に限り、派遣先も同条の「使用者」にあたるものと解される。
①雇用主(派遣元)から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配決定できる地位にある場合
②雇用主以外であっても、当該労働者との間に、近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性が存する場合

2)派遣受入期間に抵触により、派遣先企業に労働契約申込義務があるならば、上記②に該当しないのか?
派遣法40条の4は、派遣先に派遣労働者に対する労働契約の申込みを義務付けているものの、当該義務は「派遣先が派遣労働者に対して負う私法上の義務」ではなく、「国に対して負う公法上の義務」であるため、派遣労働者は、これが履行された場合に反射的利益を受ける立場にあるにとどまる。
ちなみに、雇用契約の申込義務に違反した場合は、都道府県労働局長が指導、助言を行ったうえで、雇用契約の申込みをするよう勧告を行い、それでもなお違反する場合は、厚生労働大臣が企業名の公表を行うことがあるのみで、罰則として派遣労働者との間で雇用関係が創設されるわけではない。
(但し、平成27年10月1日からは「労働契約申込みみなし制度」が始まるため、注意が必要である)

【SPCの見解】

■本件は派遣法改正前の判決であるため、派遣受入期間を抵触していても、派遣先に派遣労働者の直接雇用を義務付けるものではないと判断されているが、平成27年10月1日からは「労働契約申込みみなし制度」が施行されるため、その後は「派遣受入期間抵触=派遣労働者に直接雇用の申込みをしたものとみなされる」ということになり、上記②の「近い将来労働契約が成立する可能性がある状態」として団体交渉応諾義務もあると判断される可能性がある。「うちは専門26業務の派遣社員しか受け入れていないから大丈夫」と考えている派遣先企業も多いが、26業務にあたるか否かの判断はかなりあいまいであるため、知らずに「申込みみなし」の対象となる可能性もあり、注意を要する。

労働新聞 2014/1/20/2953号より

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