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管理が杜撰なタイムカードで時間外労働を証明できるか?

      2016/02/23

プロッズ事件 【東京地判 2012/12/27】
原告:元労働者Ⅹ  /  被告:会社Y

【請求内容】
タイムカードの記録を超えて働き、記録がない日も出勤したとして、時間外労働の割増賃金・付加金等を求めた。

【争  点】
タイムカードに手書きや空欄が多い場合でも、時間外労働があったと認められるのか?

【判  決】
パソコンのデータ保存時間をもとに作業時間を推認した結果、約800万円の時間外手当と同額の付加金支払い命令。

【概  要】
グラフィックデザイナーのⅩは、入社から3年弱で頸肩腕症候群等を発症して休業を開始し、後日労災認定を受けた。
Ⅹは過去2年間について①時間外労働に対する割増賃金として約1,600万円、②同額の付加金、③男女賃金差別による損害賠償として約350万円、④支払われるべき賞与の200万円などの支払いを求めて提訴した。Y社の労働時間の管理はタイムカードで行われていたが、管理が杜撰であり、出退勤時間が手書きされていたり、空欄となっている日もあった。

【確  認】
【実際の労働時間が明確ではない場合の、実労働時間の認定方法】
1)タイムカードによる時間管理がされている場合
⇒ 原則、タイムカードに打刻された時間が労働時間となる。
2)タイムカードがない場合
⇒ ケースバイケースだが、過去の判例では以下のようなもので実労働時間を認定している。
① パソコンのONとOFFを記録したログデータ(PE & HR事件)
② メールの送信記録(ゲートウェイ21事件)
③ タコメーターの記録(大虎運輸事件)
3)本人記載のメモ等に基づき請求がされている場合
⇒ メモの内容がそのまま認められることはないが、証拠の一部として検討され、会社側に反証が求められる。

 

【判決のポイント】

1)タイムカードで労働時間を管理していた場合、それがそのまま実労働時間と認定されるのか?タイムカードの時間が全て労働時間とは限らないが、それでも会社がタイムカードで労働時間を把握している以上、原則としてその打刻時間が業務時間であると事実上推認される。しかし労働者が「タイムカードを押した後も業務をした」と主張し、その客観的な証拠がある場合は、タイムカードの打刻時間を超えて認定されることもある。
2)タイムカードが手書きや空欄だった場合、どのように実労働時間を認定するのか?
① 出勤時刻が空欄
⇒ パソコン上にデータ保存記録が残っていたら、その日は出勤したものとみなす。時間は、その日の最初のデータ保存記録から2時間遡った時刻には出勤していたと推認した。
②「直行」と手書き
⇒ 始業時刻である9時30分に業務開始したものとする。
③ 退勤時刻が空欄 ⇒ タイムカードの時間ではなく、最終のデータ保存時刻又はメール送信時刻に退勤と認定。
④ 休憩時間 ⇒ 特に休憩が取れない程の業務ではないとして、労基法上義務付けられている時間は取得と推定。
3)Ⅹに支払われた賞与の額は不当に低額だったといえるか?
<H17年冬季賞与> Ⅹ以外の労働者の賞与は、平均約29万円であった。
<H18年夏季賞与> Ⅹ以外の労働者の賞与は、平均約58万円であった。
以上に対し、Ⅹの賞与は冬季・夏季ともに20万円であり、Ⅹには平均程度の賞与が支給されてしかるべきであったにもかかわらず、客観的かつ合理的な理由がないのに平均程度の支給されなかったのは不法行為であるとした。

【SPCの見解】

■タイムカードで労働時間の管理をしていても、必ずしも業務終了とともに打刻されているとは限らない。例えば同僚と話しながら着替えをし、業務終了後随分時間が経過してから打刻していても、いざ時間外労働について争うことになった場合、打刻時間がそのまま労働時間と認定されてしまうことがあるので注意が必要である。これを回避するには、使用者側がしっかり管理し、業務終了後速やかに帰宅することを指導するしかない。逆に、使用者が定時にタイムカードを打刻させ、時間外労働がないように見せかけても、本件のようにパソコンの記録や事業所のセキュリティ施錠時間などの記録で労働時間が認定されることがあるため、悪質な時間外労働隠蔽は厳に慎むべきである。

労働新聞 2013/9/16/2937号より

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