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無期雇用者を有期雇用に転換させてすぐ雇止めしても良いか?

      2016/02/23

医療法人清恵会事件 【大阪地判 2012/11/16】
原告:元正社員Ⅹ  /  被告:Y病院

【請求内容】
正社員から有期雇用に転換させられ1年で雇止めされたのは無効として雇用契約上の権利を有する地位確認を請求

【争  点】
正社員から有期雇用になったⅩには、雇用継続について合理的な期待があったといえるか?

【判  決】
雇用契約書の内容や契約時のやりとりから、Ⅹが雇用継続に期待していたことは明らかで、Ⅹの請求を認めた

【概  要】
Y病院の正社員Ⅹが、母の介護のため週3日のパートへの転換を希望したところ、会社側は「1年毎の有期雇用契約」とすることを提案した。しかしⅩがこれに反対したため、雇用契約書の「更新しない場合は30日前までに予告する」という文言を削除したうえで、有期雇用として契約した。その後Y病院は、有期雇用転換後1年でⅩを期間満了による雇止めとした。契約書には「更新は1年毎とする」「定年満60歳」「昇給は更新時に検討」等と記載されていた。

【確  認】
<解雇と雇止めの違い>
【解雇】
無期雇用者または契約期間が満了していない有期雇用者との労働契約を、使用者が一方的に解除すること。
労働契約法16条にて、不合理で相当性の無い解雇は無効であると定められている。(解雇権濫用法理)
【雇止め】
有期雇用者の雇用契約期間が満了した時点で、労働契約を終了すること。本来は問題のない行為だが、無期雇用者とほぼ同じような働き方をしていた者や、更新への期待が高いと認められる者については、一定 の保護を与えようという趣旨から、雇止めにも解雇権濫用法理を類推適用する「雇止め法理」が、平成24年8月に労働契約法に追加された。(労働契約法19条)全ての雇止めに適用される訳ではないので注意。

 

【判決のポイント】

【判決のポイント】
■Ⅹが抱いていた雇用継続(更新)への期待は、客観的に見て合理的な期待であるといえるか?
【結論】以下のような事実から、Ⅹは有期雇用労働者になることに納得しておらず、たとえ有期雇用になったとしても、当然に更新されるであろうと期待したこと(少なくとも1年で雇止めになるとは想定していなかったこと)は合理的期待であるといえるため、解雇権濫用法理を類推適用し、雇止めは無効であるとした。
①Ⅹは元々無期雇用者であり、親の介護のために週3日勤務を希望した(有期雇用を希望した訳ではない)こと。
②Y病院側がⅩに「1年毎の有期雇用契約」を提案したところ、Ⅹははっきりと反対したこと。
③雇用契約書に当初書かれていた「更新しない場合は契約満了の30日前までに本人に予告する」という更新をしない可能性を示唆する文言を、Ⅹの有期雇用転換反対の意思を受けて削除したこと。
④その他契約書には「更新は1年毎とする」「定年満60歳」「継続雇用制度就業規則に準じる」「昇給:本契約更新時に検討」等、雇用継続がある程度期待されるような内容が記載されていたこと。


【有期雇用契約労働条件通知書に更新基準の明示義務へ】(労働基準法施行規則第5条改正:平成25年4月1日)労働契約法の改正に合わせて、有期雇用契約の「更新する場合の基準に関する事項」の書面明示が義務付けられた。
【参考】<有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準>
1)30日前の雇止めの予告 ⇒ 有期労働契約が3回以上更新されているか、1年を超えて継続雇用されている者
2)雇止めの理由の明示 ⇒ 労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合は、遅滞なくこれを交付する。
3)契約期間についての配慮 ⇒ 1回以上更新・1年超の継続雇用者の契約期間をできる限り長くするよう努力。

【SPCの見解】

■本件は、正社員であったⅩが母の介護のために「労働日を減らしたい」と希望しただけであるのに、会社側が無期契約から有期契約に転換してしまった点に問題があったと思われる。会社の制度として「無期契約の短時間労働者」という雇用形態が存在していなかったためかもしれないが、そうであるならば少なくとも、Ⅹの契約はある程度更新されて然るべきであったのに、転換後1年で雇止めとしたのはやはり相当とはいえない。今回Ⅹは正式な「介護休業」は(何故か)取得していないが、育児介護休業法10条で介護休業取得者への不利益取扱いを禁止している趣旨からも、「短時間正社員」のように無期契約のまま労働時間を減らす配慮がされても良かったのではないかと思われる。

労働新聞 2013/9/23/2928号より

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