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休日に飲酒運転で自損事故を起こした者を懲戒免職できるか?

      2016/02/23

姫路市(酒気帯び自損事故)事件 【神戸地判 2013/01/29】
原告:消防職員Ⅹ  /  被告:姫路市

【請求内容】
非番日に原付を酒気帯び運転し自損事故を起こした事への懲戒免職処分は苛酷であり裁量権濫用として取消し請求。

【争  点】
私生活上の酒気帯び運転による自損事故に対して、懲戒免職処分としたことは裁量権濫用により違法なのか?

【判  決】
私生活上の行為・非管理職・第三者被害なし・前科なし・他県との比較等により懲戒免職処分は苛酷であり取消し

【概  要】
姫路市の消防職員Ⅹは、飲酒した後に原付を運転して転倒するという自損事故を起こし、道路交通法違反により罰金20万円と免許取消し2年となった。Ⅹの酒気帯び運転の事実は新聞各紙で報道された。姫路市は懲戒処分に関する基準で「酒酔い運転した場合は免職(特段の事情あれば停職)」と定めていたことから、Ⅹを懲戒免職・退職金全額支給制限とした。Ⅹは管理職ではなく、それまで懲戒歴はなかった。事故後本人は事実を認め、謝罪・反省している。

【確  認】
【私生活上の飲酒運転を理由として懲戒処分する場合の判断要素】
まず前提として、就業規則にて「飲酒運転をした場合は懲戒解雇する」等の具体的規程が定められていることが必要であるが、定めがあっても必ず懲戒処分が有効となる訳ではない。判断要素としては①飲酒量、②事故の報道の有無と会社に与えた影響、③事故の態様・程度、④行為者が管理職か否か、⑤これまでの前科前歴や勤務態度・成績、⑥反省の姿勢・・・などを総合的に考慮して、処分が相当か否か判断する必要がある。(以下過去の記事の参考判例)
▼懲戒に関するルール「(2013.5.15)一定時間が経過してからの懲戒処分は無効なのか?」(確認欄参照)
▼私生活上の非行のその他事例:「(2013.7.3)私生活上の非行による退職金減額は何割が妥当か?」

 

【判決のポイント】

■飲酒運転により事故を起こしたにもかかわらず、なぜ懲戒免職が違法取消しとなったのか?
①酒気帯び運転が「休日」に「職場とは関係ない場所」で発生したものであったこと(私生活上の行為)
⇒私生活上の非行は企業秩序維持とは基本的に無関係であるため。但し運送業等の場合は懲戒解雇も有り得る。
②Ⅹは当時管理職ではなかったこと ⇒社会的責任や影響力は管理職に比べて少ない。
③酒気帯び以外、速度違反等の事実は無く、また第三者に対する具体的な被害も生じなかった。
④Ⅹは、約29年半にわたる勤務期間の中で、懲戒処分を受けたことはなく前科前歴もなかったこと。
⑤Ⅹは事情聴取等には素直に応じ、飲酒運転をしたことを認め、謝罪、反省の気持ちを表していること。
⑥他の自治体では、人身事故なのか、物損事故なのかで処分の重さに差を設けており、原則免職となるのは人身事故の場合とされていた。⇒他の類似事例での処分と比較して必要以上に重い処罰は裁量権濫用といえる。
以上のことから、Ⅹの飲酒運転対する処分として懲戒免職・退職金全額支給制限は、労働契約法15条に照らして、社会通念上相当であるとは言えず、裁量権の逸脱濫用に当たり、違法なものであるとして処分を取り消した。


【労働契約法 第15条】(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

【SPCの見解】

■原則、労働者の私生活上の問題行動に対して、会社が懲戒処分をすることはできない。しかし、それが会社の信頼を失墜させたり、社内秩序を乱すような事態にまで発展した場合は別である。例えば社内不倫が発覚した場合であっても、それは(民法上違法ではあるものの)あくまで私人間の問題であり、会社がこれを理由に処罰することはできない。但し、不倫相手が取引先で、不倫発覚により取引が終了してしまったような場合は、会社に損害を与えているため、懲戒処分の対象とすることができる。但し、処分が可能な場合でも、私生活上の非行に対して解雇・免職をすることは難しく、本件のように違法な懲戒処分と判断されてしまう場合があるので慎重に検討する必要がある。

労働新聞 2013/9/9/2936号より

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