会社は人事権の行使として自由に配置転換できないのか?
2016/02/23
東日本電信電話ほか事件 【東京高判 2008/03/26】
原告:労働者Xら / 被告:Y社
【請求内容】
北海道から首都圏へ配置転換されたのは配転命令権を濫用したもので違法無効として、慰謝料等を請求した。
【争 点】
構造改革の一環である業務の外注委託により担当業務のなくなったXらを配置転換したことは配転命令権の濫用か?
【判 決】
Y社にとっての構造改革の重要性とXらが被った不利益等を比較衡量すると、配転命令権の濫用とは認められない。
【概 要】
Y社は構造改革により業務を新会社に外注委託し、さらに雇用形態の見直しとして「50歳以降の従業員は①繰延型、②一時金型、③60歳満了型(詳細は以下のポイント参照)のいずれかを選択する」という制度を公表した。いずれも選択しなかったXらは③を選択したとみなされ、業務の外注委託により担当業務のなくなったXらは、北海道から首都圏へ配置転換された。Xらは、本件配転を配転命令権の濫用として不法行為に基づく慰謝料の請求をした。
【確 認】
【労働契約法第3条5項】(権利濫用の禁止)
労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。
【配転命令権の濫用】東亜ペイント事件(最判昭和61年7月14日)より
会社に配転命令権があるとしても、配転命令権は無制約に行使することができるものではなく、濫用と認められるときは違法、無効である。「当該転勤命令に業務上の必要性がない場合」「当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき」「労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき」等、特段の事情がある場合でない限りは、転勤命令は権利の濫用となるものではない。
【判決のポイント】
<事件の概要(補足)>(Y社が新たに導入した制度は以下のとおり)
① 繰延型 ⇒ 新たに設立する会社に再雇用され60歳まで勤務する。給与は低下するが、勤務地は限定される。
② 一時金型 ⇒ ①と同様であるが、退職時に一時金を支給される。
③ 60歳満了型 ⇒ 現行の人事・給与制度により60歳まで雇用を継続する。
■なぜXらの配置転換は配転命令権の濫用ではないのか?
【業務上の必要性・配転命令の目的】
本件構造改革はY社にとって重要な施策であり、Xらが必ずしもその適性が高いとはいえない職場に配置されたとしてもやむを得ない。
【労働者の受ける不利益の程度】
配転先として首都圏が候補とされたことにも業務上の必要性が認められたことからすれば、Xらに生じた不利益は、配転に伴い労働者が通常甘受すべき程度の不利益というほかない。
【人選の合理性】
新会社への業務の外注委託によりXらの担当業務がなくなったのであるから、Xらが配転の対象となることはやむを得ない。Xらの配転の業務上の必要性を検討する際に、配転が余人をもって替え難いといった高度の必要性が求められるべきものではない。
⇒ 以上の点を考慮すると、本件各配転が、配転命令権を濫用して行われたものとは認められない。
【SPCの見解】
■会社は「人事権の行使」として労働者に配転命令をすることができる(但し就業規則に規定する必要がある)が、無制限に認められているわけではなく、法律や判例による制約を受ける。上記「確認欄」で挙げたものの他にも、育児介護休業法26条(労働者の配置に関する配慮義務)による制限も重要であり、判例でも、育児や介護が必要な家族を持つ労働者に対しての配転命令を「労働者が受ける不利益の程度が通常甘受すべき程度を超える」として権利濫用と判断するケースが増えている点に注意が必要である。また、雇い入れ時に「業種や勤務地の限定」を約束してしまった労働者への配転命令は、本人の同意が必要となる。配転の対象者選定は慎重にすべきである。
労働新聞 2008/9/29/2698号より