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高年齢者は、健康不安を理由に雇止めできるか?

      2016/02/23

北港観光バス(雇止め)事件 【大阪地判 2013/01/18】
原告:運転手X  /  被告:会社Y

【請求内容】
68歳で体力低下等を理由に雇止めされた運転手が、当該雇止めは「解雇権濫用法理」の類推適用により無効と主張。

【争  点】
①Xに契約更新への合理的期待が認められるか?(法理適用の是非)
②本件雇止めに合理的な理由があるか?

【判  決】
①65歳以上の労働者も相当数おり、合理的期待あり。
②68歳という線引きが不明で合理的理由なし。⇒雇止め無効。

【概  要】
Y社では「60歳定年・65歳まで再雇用・それ以降は個別協議による」と就業規則に定められていた。Xは68歳時点で「継続雇用制度の期間を大幅に超えており(年齢面)、体力的にも勤務可能でない(健康面)と判断したため」という理由で雇止めされた。Y社では今まで「65歳を超える運転手との再雇用は、体力、健康面に問題がない限り、70歳まで継続する」という運用がされていたが、Y社は事故リスク回避のため高齢者を減らす方針を決めていた。

【確  認】
【「雇止め法理」の法定化(第19条)】
有期労働契約は、期間が満了すれば労働契約が終了するのが本来であるが、「何度も契約更新されて長年雇用関係が継続している場合」や「使用者の言動等により、雇用契約が更新されるだろうと(普通の人の感覚ならば)期待してしまう場合」は、「解雇の有効性」について検討する際に用いられる「解雇権濫用法理」を類推適用してその有効性を判断することになる。つまり、まず第一段階として「本件雇止めに解雇権濫用法理を類推適用するか否か」を検討し、する場合は、第二段階として「解雇権濫用法理にて検討した結果、本件雇止めが有効か否か」を判断するという手順となる。雇止めが有効とされるには「客観的に合理的な理由と社会通念上相当性」の二つが必要とされている。

 

【判決のポイント】

【解雇権濫用法理の適用の有無を検討する】 ⇒ Xに契約更新への合理的期待が認められるか?
Y社では65歳を超える労働者も相当数の者が契約更新されており、雇止めが行われた当時で全従業員の16パーセントが65歳以上であったことと、X自身も65歳に達した後も複数回の契約更新がされていること等からも、Xが雇用継続に対する期待を抱くことは客観的にみて合理的である。 ⇒「解雇権濫用法理の適用あり」と判断。

【本件雇止めの合理性を検討する】
(1)会社が「Xは体力的に勤務継続が可能ではないと判断した」ことは妥当だったのか?(健康面)
①Y社は、Xに雇止め通知をした際、Xの健康上の問題について具体的な指摘はしなかったこと。
②Xの糖尿病については、以前から健康診断で指摘されていたにもかかわらず、Xの契約は複数回更新されてお り、この間に病状が悪化したことを裏付ける診断はなされていないこと。
③Y社は、雇用継続の可否を判断する際、Xに医師の診察を受けさせるなどしていないこと。⇒ 以上の事情を考慮すると、Y社がXの体力や健康状態等の個別事情を考慮していたとは考えにくい。
(2)会社が「68歳」という年齢を基準としてXを雇止めしたことは妥当だったのか?(年齢面)
■Y社では、従来から65歳を超える運転手との再雇用は「体力、健康面に問題がない限り70歳まで継続する」という運用がされていたにもかかわらず、今回Xがなぜ68歳という線引きで雇止めされたのかという点についてなんら合理的な説明がなされていないことからすると、Y社の「高齢な運転手を減らしていく」というY社の方針は、それだけでは本件雇止めの合理的な理由とはいえず、妥当ではない。

【SPCの見解】

■法律では65歳までの継続雇用を義務付けているが(経過措置あり)、会社が独自の運用として65歳以上も雇用を継続している実態がある場合は、それが雇止め基準となる点に注意が必要である。合理的期待が発生している有期雇用労働者に対して「解雇権濫用法理」が類推適用される点も、年齢が高いからといって変わるところはない。高年齢による体力の衰えや持病の悪化を理由に雇止めをするケースも多々あるが、その場合も客観的な根拠が必要であり、会社が医師の判断をあおぐことなく、勝手な印象で「この人は体力的にムリだ」などと判断することに合理性はない。高齢者の雇用継続もトラブルになりやすいため、更新手続きは一定の基準のもとに厳格に行う必要がある。

労働新聞 2014/3/10/2960号より

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