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いきなり解雇は無効となるか?(段階的処分の必要性)

      2016/02/23

南淡漁業共同組合事件 【大阪高判 2012/04/18】
原告:労働者X  /  被告:Y共同組合

【請求内容】
段階的懲戒処分等をしないで解雇したことは解雇権濫用で無効として労働契約上の地位確認、給料、慰謝料を請求。

【争  点】
指導や警告、段階的懲戒処分や弁解の機会の付与をしないままに行われた解雇は無効か?

【判  決】
Xの規律違反行為は解雇事由に該当し、社会的相当性も欠いていないため解雇権濫用とはならず解雇は有効である。

【概  要】
XはY共同組合にて信用業務(貯金業務)を担当していたが、無断振替や口座名義人に無断で代筆して出金するなどの規律違反をして他の組合員の信頼を損ねたほか、他の職員との業務上必要な連絡・連携も拒み、業務に支障が出ていた。Y代表者が3回にわたり注意するも「ほっといてくれ」と発言し、反発を強めるばかりで改善の見込みがなかったことから、Y共同組合は、Xを就業規則の普通解雇事由に該当するとして普通解雇した。

【確  認】
【解雇の有効性の判断基準】
1)就業規則所定の解雇事由に該当する事実があったか?(解雇事由該当性の有無)
2)解雇権の行使が社会通念上相当といえるか?(社会的相当性の有無)
⇒ ① 解雇理由が重大なレベルに達しているか ② 当該従業員が反省、謝罪等をしているか
② 解雇回避努力をしたか(合意退職・配置転換など) 等により総合的に判断する。
※解雇の有効性を確保するには「段階的懲戒処分」が有効とされているが、そうしなければ解雇できないという法律上の規制はない。また、懲戒処分についても社会通念上妥当なレベルで行う必要があるので注意が必要。

 

【判決のポイント】

【ポイント】1審判決はX(原告)が勝訴したが、2審でY漁業共同組合が勝訴という逆転判決となった。
<1審判決の内容>
● Xは無断で振替手続をしたが、Y代表者から注意を受けた後は、このような重大な規律違反は行わないようになった。これはきちんと指導や警告をしたり、解雇に至らない程度の懲戒処分をすれば、Xが職務態度を改善していたのではないかと推認される事情である。
● Xに対して解雇を含む厳しい処分があり得る旨を明示して指導や警告をしていれば、職務態度を大幅に改善できたのではないかという蓋然性は否定できない。従って、それらを行わずにされた解雇は著しく不合理で、社会的相当性を欠き、本件解雇は無効である。
⇒ この判決はXの勤務態度は改善される可能性があったという点を必要以上に重視しており、本件が「解雇事由該当性の問題」か「社会的相当性の問題」かを明確に区別せずに漫然と結論に至っており基本部分に過誤がある。

<2審判決の内容>
【解雇事由該当性】
Xの規律違反行為は就業規則49条の「組合の信用を傷つけ又は重大な過失により組合に損害を及ぼしたとき」に該当すると認定。Xは注意に対して反発するばかりで改善の見込みもなかった。
【社会的相当性】
① Xの態度は解雇事由に該当するほど重大なレベルである
② YがXに退職勧奨をしたところ翌日から出勤しなくなり解雇回避努力も弁明の機会の付与もできなかった。
② XがY代表者より注意されたところ「ほっといてくれ」と発言するなど宥恕すべき事情もなく、相当性あり。

【SPCの見解】

■問題のある社員は即時解雇してしまいたいというのが会社の本音だが、(明らかな犯罪行為をした場合などは別として)いきなり解雇をするのはリスクが高い。今回のケースでは労働者にかなり問題があったことと、共同組合が労働者に対して再三注意をしたものの改善がみられなかったという点が、共同組合側勝訴の結果に大きく影響している。また、高裁で覆ったとはいえ第1審で労働者側勝訴の判決が出たことも無視できず、解雇前の段階的懲戒処分は可能な限りするのが無難であろう。しかし実際の現場では、そんな余裕もないほどの問題社員も存在し、解雇権濫用で無効となるリスクを承知の上で解雇に踏み切らざるを得ないケースもあるため、その時の判断は難しいものとなる。

労働新聞 2013/2/18/2909号より

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