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労災補償打切り後の休業は会社に補償義務があるのか?

      2016/02/23

神奈川都市交通事件 【最一小判 2010/01/24】
原告:タクシー乗務員Ⅹ  /  被告:会社

【請求内容】
休業補償給付打切り後の休業期間について、賃金・休業手当(労基法26条)または休業補償(労基法76条)等を請求。

【争  点】
①症状固定後なおも復帰できない場合、会社は休業補償義務があるか?
②事務職での復帰に応じる義務はあるか?

【判  決】
①労基法84条により、76条の義務は全て免除される。
②乗務員という職種限定採用であるため、応じる義務はない。

【概  要】
タクシー乗務員Ⅹが勤務中に負傷し、労災の休業補償給付を受けて休業していた。その後、症状固定として休業補償給付は打切られた為、会社はⅩにタクシー乗務員としての復職可否判断のため医師の診断書の提出を求めたが、Ⅹはなおも乗務員としての業務は不可能であるとして、診断書は提出せず事務職としての復職を求めた。会社は事務職としての復職を認めなかった為、Ⅹは治癒後約7ヶ月間休業し、その期間中は有給休暇を消化し、消化後は欠勤となった。

【確  認】
【業務災害に対する「労基法上の休業補償」と「労災法上の休業補償」について】
まず、【労基法76条の休業補償】と【労災法の休業補償】は全く別物であることを認識することが重要である。労働者が業務上の負傷等の療養のために休業した場合には、会社はその補償をしなければならない(労基法76条)が、会社が加入している労災保険からの補償が受けられる場合は、会社は労基法76条の補償義務が免除される(労基法84条)という仕組みになっている。免除されるのは(労災から給付された補償金の額に関わらず)「労基法76条で補償義務があるとされているもの全て」である。但し、労災の給付が出ない休業開始から3日間については、労基法84条による免除はなく、76条により会社側に休業補償責任があるので、混同しないよう注意したい。

 

【判決のポイント】

1)労災の休業補償給付打切後も職場復帰できない場合、会社は休業補償(労基法76条)しなければならないのか?
上記「確認」のとおり、労災からの補償を受けられる場合は、労基法上の補償責任は全て免除される。よって、労災からの補償が打切られた後、なおも職場復帰できないからといって、会社には、復帰までの期間の休業補償(労基法76条)をする義務はない。(なお、民事上の損倍請求等は別問題であり、これらまで免除されるものではない)
2)会社が復職を認めない場合、使用者の責に帰すべき事由による休業として休業手当(労基法26条)が必要か?
会社が復職を認めなかったことに正当な理由があった場合は、休業手当の支払いは必要ない。本件では、会社はⅩに対して、タクシー乗務員として就労可能か否かを判断をするための「医師の診断書」の提出を求めていたにも関わらず、Ⅹはこれを提出しなかった。タクシー業務の安全性確保という観点からも、診断書が提出されない期間の就労を拒否することには正当性があるといえる。よって、この期間の休業手当の支払いは必要ない。
3)Ⅹが「タクシー乗務員としては無理でも、事務職としての復職はできる」と申し入れたが、会社がこれを受け入れずに休業命令をしたことは「使用者の責めに帰すべき事由」による休業(労基法26条)にあたるのではないか?
本件では、Ⅹはタクシー乗務員として【職種を限定して】雇用されていたことから、会社は事務職としての復職申入れを受け入れる義務はなく、使用者の責めに帰すべき休業として休業手当の支払いを要するものではない。
<ただし他の判例では>(カントラ事件 大阪高判 平成14.6.19 など) 「業務の都合で職種変更もある」としている場合は「原職復帰が出来ない=復職拒否」は不当と判断されることも。

【SPCの見解】

■「症状固定」は「治癒」とは異なり『治癒していないが、これ以上治療を続けても改善が見込めない状態』であるから、「症状固定」で労災給付が打切られたからといって、すぐに職場復帰できる状態であるとは限らない。よって、本件の様に「労災給付はないけど休業せざるを得ない期間」が発生し、その期間の補償は誰がするのか?という問題が生じるのである。本件は会社に補償責任なしとの判断がされたが、これは会社の復職拒否の判断に正当性が認められたからこその結論であり、これが不当と判断された場合は休業手当が必要な場合もあるので、注意を要する。他職種・他部署での復職や短時間勤務など、あらゆる可能性を検討することで、紛争リスクは軽減できるだろう。

労働新聞 2013/6/23/2686号より

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