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酒に弱い部下に対する飲酒強要はパワハラなのか?

      2016/02/23

ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件 【東京高判 2013/02/27】
原告:労働者Ⅹ  /  被告:会社Y

【請求内容】
精神疾患の発症は業務上の疾病であるから休職期間満了による自然退職は無効として地位確認と損害賠償を請求。

【争  点】
①Aのパワハラ行為は不法行為となるか?
②Xの精神疾患はAのパワハラによるもので業務上疾病といえるか?

【判  決】
Aの行為を不法行為と認め、AとY社に連帯して150万円の支払いを命令。但し精神疾患との因果関係は否定した。

【概  要】
A次長の部下であったXは、Aにより①出張先で飲酒を強要され、②翌日体調不良にもかかわらず車の運転をさせられ、③帰社命令に反して直帰したことについて2度にわたり留守電に怒りを露わにする録音をされ、その後、④留守電に「辞めろ!ぶっ殺すぞ、お前!」などと録音される等のパワーハラスメントを受けた。Xは精神疾患を患い、休職期間満了で自然退職となったが、Xは、Aによるパワハラが原因の業務上疾病であり退職は無効として提訴した

【確  認】
【パワハラが不法行為となる場合】(本件の一審判決)世上一般にいわれるパワハラは極めて抽象的な概念で、内包外延とも明確ではない。そうだとするとパワハラといわれるものが不法行為を構成するためには、質的にも量的にも一定の違法性を具備していることが必要である。したがって、パワハラを行った者とされた者の人間関係、当該行為の動機・目的、時間・場所、態様等を総合考慮の上、「企業組織もしくは職務上の指揮命令関係にある上司等が、職務を遂行する過程において、部下に対して、職務上の地位・権限を逸脱・濫用し、社会通念に照らし客観的な見地からみて、通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為」をしたと評価される場合に限り、被害者の人格権を侵害するものとして民法709条所定の不法行為を構成するものと解するのが相当である。

 

【判決のポイント】

<上司の言動のうち、不法行為であると認定されたもの(一審判決との比較)>
①飲酒の強要
【一審:不法行為ではない】Xの酒量はコップ約3分の2程度で、Xの体質を考慮にいれても多量であるとはいい難い。Aの飲酒の勧誘は強要といわれても仕方がないが、その飲酒の経過や態様等からみて、上司としての立場(地位・権限)を逸脱・濫用し通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような性質、内容のものであったとは言い難い。 【二審:不法行為である】これは単なる迷惑行為にとどまらず、不法行為が成立する。
②体調不良時の運転命令
【一審:不法行為ではない】Xが飲酒を終了してから既に12時間以上が経過しており、Xがレンタカーを運転した時間は僅か5分から10分程度であったことから、不法行為と評価し得るほどの違法性を備えたパワハラとはいい難い。
【二審:不法行為である】昨夜の酒のために体調を崩していたXに、たとえ僅かな時間であっても、上司の立場で運転を強要したことは不法行為上違法であることは明らかである。
③留守電への録音-1
【一審:不法行為ではない】パワハラ的要素を含んでいるとしても、直ちに不法行為とはいい難い。
【二審:不法行為である】Xに精神的苦痛を与えることに主眼が置かれており、社会的相当性を欠き不法行為。
④留守電への録音-2
【一審二審ともに:不法行為である】夏季休暇中のXに対し「ぶっ殺すぞ」という言葉を用いて口汚くののしり、辞表を強いるような発言をしたことは、不法行為上違法であることは明らかで、その態度も極めて悪質である。

【SPCの見解】

■パワーハラスメントという言葉は法的用語でもなく、法的な定義すら存在しない。厚生労働省が平成24年にパワハラについて定義したが、やはりその判断は困難なままである。本件は「ぶっ殺す」などと、脅迫ともいえる言動をしており、明らかに教育・指導の範疇を超えているが、実際の現場では、熱血指導ゆえの罵声なども当然あって然るべきである。パワハラ認定を恐るがゆえに上司が萎縮しすぎてしまうと、会社全体のレベルも低下してしまう。よって、限度を超えるパワハラか否かは、さらに上の上司や、周りの同僚が常に気を配り、一般的常識のモノサシで判断するしかない。熱血指導も、部下の精神状態を観察しながら、その都度調整していくしかないだろう。

労働新聞 2013/11/18/2945号より

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