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休職社員が「他の業務なら復職可能」と主張してきた場合の対応

      2016/02/23

第一興商(本訴)事件 【東京地判 2012/12/25】
原告:労働者X  /  被告:会社Y

【請求内容】
視覚障害は上司らのパワハラによるもので業務上傷病であるから、休職期間満了による自然退職は無効と主張した。

【争  点】
①Ⅹの退職は労基法19条違反で無効か? ②休職期間満了時に、Ⅹの休職事由は消滅していた(復帰可能)か?

【判  決】
①障害は業務上のものではないため19条違反ではない。
②Ⅹの休職事由は消滅しており、自動退職は無効である。

【概  要】
Ⅹは視覚障害を発症し休職していたが、休職期間満了時点で復職不可と判断され、自動退職扱いとなった。Ⅹは、① 「障害発症は上司の暴言など業務上によるものであり、自動退職扱いは、労災休業中の解雇を制限している労働基準法19条に違反する」として退職は無効であると主張した。また、②休職期間満了時には復職可能な状態であったとして、「雇用契約上の地位確認」「自動退職後の賃金支払い」等を求めた。

【確  認】
労働基準法 第19条1項(解雇制限)
使用者は、以下の理由によって休業する期間及びその後30日間は、労働者を解雇してはならない。(例外あり)
① 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間
② 産前産後休業期間(女性のみ)
在籍中は私傷病として休業していた者が、退職後に「本当は業務上の傷病であった」として労基法19条違反により、自然退職無効(自然退職は解雇ではないが、類似するものとして禁止される)を主張するケースがある。
※類似のケースは【No.81】「休職期間満了による退職後に労災認定されたら解雇無効か?」(ライフ事件)参照。

 

【判決のポイント】

1)Ⅹが視覚障害を発症したのは業務上のもの(上司らの暴言等によるもの)であるといえるか?
Ⅹの主張する「上司らから継続的に暴言を浴びせられた・嫌がらせを受けた」という供述については信用することができず、他にXの主張を認めるに足りる的確な証拠はないから、業務との相当因果関係を認めることはできない。
⇒ よって、本件休職は「業務上疾病の療養のための休業」ではないため、労基法19条1項の解雇制限にかかるケースではなく、休職期間満了により自動退職としても、労基法19条1項違反とはならない。

2)労基法19条違反ではないのに、何故Ⅹの自動退職は無効となったのか?
Ⅹは、遅くとも休職期間満了時点において「休職の理由となった疾病は治癒し、通常の勤務に従事できる」との医師の意見を得ていた。これにより、休職事由消滅について事実上の推定がはたらくため、Y社がこれに対して「Ⅹを配置できる配属先がない」等の反証を挙げない限り、休職事由は消滅したと推認される。
⇒ 休職事由が消滅していたのであれば、当然、休職期間満了による自動退職は、効力を生じないことになる。

3)傷病発症前の業務遂行が難しい場合、会社は他の(遂行可能な)業務への配属を検討しなければならないのか? 労働者が、職種や業務内容を特定することなく雇用契約を締結している場合においては、今までの業務は遂行できない場合でも、その能力、経験、地位、当該企業の規模・業種、当該企業における労働者の配置、異動の実情及び難易等に照らし、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているのあれば、会社は他の業務への配属を検討せずして復職拒否はできない。

【SPCの見解】

■判決のポイントの3は、最高裁判決(片山組事件)の援用である。つまり、今までの業務に従事するのは難しくても、社内の他の業務(例えば事務など)なら出来そうであり、本人が「事務ならできます」と申出ている場合、その労働者が「私は働ける(労働契約の義務が果たせる)」と主張する以上、会社は事務職への配属が可能か否かを全く検討しないで復職を拒否することはできない。但し、検討した結果、事務職への配属が難しい(空きのポストがない等)場合にまで、無理に事務職枠を増やしてまで復職させなければならない訳ではない。ちなみに、職種や業務が特定されている場合(運転手限定で採用した等)は、その特定業務以外への配属を検討する必要はない。

労働新聞 2013/8/19/2933号より

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