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管理者が非違行為を黙認していた場合、懲戒処分できるか?

      2016/02/23

大阪市事件 【大阪地判 2013/03/25】
原告:市職員ら5人  /  被告:大阪市

【請求内容】
河川清掃中に拾った金品着服に対する処分(懲戒免職)が重過ぎるとして、大阪市に対し、処分取消しを求めた。

【争  点】
組織ぐるみで行われ、管理者も黙認していた金品着服行為に対して「懲戒免職」処分は重すぎるのか?

【判  決】
原告らに懲戒処分歴がなく、大阪市にも不祥事を招いた責任があることから、懲戒免職は重すぎるとして処分無効。

【概  要】
大阪市河川事務所の職員ら(公務員)が、組織ぐるみで河川清掃中に習得した金品・物品を私物化していたことが、内部告発により明らかになった。環境局による事実調査のうえ、処分方針のもと、事実認定ができたもの(結果として本人が事実関係を認めたもの)を懲戒免職などに処したが、管理者側が着服行為を是認助長してきたことや、処分方針自体の不合理性などの点から、懲戒免職処分は重すぎるとして、処分の取消しを求めた。

【確  認】
【人事院通知】懲戒処分の指針について
公務員への懲戒処分については、人事院がおおまかな指針を作成している。下記はその内容の一部である。
<懲戒免職となりうる場合>
①21日以上の欠勤 ②違法な職員団体活動(あおり・そそのかし)
③秘密漏えい ④入札談合等に関与する行為
⑤強制わいせつ等 ⑥公金官物の横領・窃取・詐取
⑦放火・殺人・麻薬や覚せい剤等の所持又は使用 ⑧詐欺・恐喝・淫行
⑨飲酒運転・飲酒運転以外での人身事故で死亡又は重篤な傷害がある場合 など
※ 一般の企業の場合は、それぞれが作成している就業規則の内容に沿って懲戒処分を行うことになる。

 

【判決のポイント】

【処分方針】(一部省略)
1)現金・有価証券を個人的に私物化した場合は、免職を基本とする。但し、金額が小額の場合は軽減する。
2)職場でストックされたものから、後に分配を受けた場合、停職3ヶ月とする。
3)物品を引き上げた後に物品を家に持ち帰る、または職場で使用するなど私物化した場合は減給とする・・・など。

<なぜ着服行為を行った職員らの懲戒免職処分は無効なのか?>
本件非違行為は、公務員としての職務上の義務に違反し、被告職員としてその職の信用を傷つけたことは明らかであるが、他方で、処分方針の不合理性や、原告らに懲戒処分歴がないこと、被告(大阪市)も本件不祥事を招いたことに責任があることなどを考慮すると、原告らに更正の機会を与えることなく直ちに懲戒免職とした本件処分は重すぎるといわざるを得ず、社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用したものとして違法。

<処分方針の問題点>
①本件非違行為は「遺失物横領罪」であり、通常免職とされる「横領・窃盗・詐欺」と比べて違法性が低い。
②「現金」私物化は免職、「物品」私物化は減給とするのは合理的ではない。(物品でも交換価値がある場合有)
(ゴルフバッグを持ち帰った所長は、監督責任と併せて停職1ヶ月という軽い処分に留まっている)
③本人が認めたかどうかで懲戒免職か否かが決まるのは公平性の点で問題がある。
④管理者側が非違行為を長年にわたり是認助長してきたことに大きな原因があるのに、管理者責任は軽すぎる。

【SPCの見解】

■本件は公務員の懲戒処分についての判例だが、考え方としては参考になる。例えば、従業員が懲戒処分に該当する行為を行っていたとしても、会社がそれをずっと助長・黙認していたにもかかわらず、ある時突然懲戒処分するということは許されないと考えるべきである。(労働契約法第15条にて「懲戒が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」 と定められている)また、行為者の上司に対して管理監督責任により懲戒処分をする場合は、予見可能性(故意や過失)や、管理者の監督指導義務の懈怠の度合い等を考慮して、処分内容を決定すべきである。

労働新聞 2013/8/26/2934号より

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