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監督が怒ってはいけない大会

      2025/09/12

先日、元バレーボール全日本代表の益子直美さんの講演に参加しました。スポーツハラスメント根絶を目指し「監督が怒ってはいけない大会」を開催し始めて10年を迎えられたそうです。

全日本代表で活躍されていた頃も、綺麗な人だなとテレビの前で観ていましたが、今も綺麗さそのままに、トークの魅力が加わり、一瞬で釘付けになりました。会場は500席くらいのホールでしたが、益子さんに参加者一人一人が認識してもらえていると感じられた時間でした。

学生時代のバレーボール部の練習風景を映像で見せていただきましたが、私も学生時代はバレーボール部に所属していたので、映像はまさに懐かしの昭和の部活動でした。競技が違っても、講演に参加した方の多くは、監督やコーチからの怒号はもちろん、平手打ち、蹴り、道具での暴行を受けてきた方が多かったです。昭和のスポ根アニメやドラマそのままの経験者、意外と多いんですね。

益子さんは強豪校相手に勝ち進み、予想よりもはるかに良い成績を残した“準優勝”の大会の表彰式ですら「この後、監督から怒られる」と恐怖を感じていたと、当時の写真と共に話してくれました。試合中も、監督が気になり、怒られないように監督の指示のままプレイをしていたことや、怒られるからレギュラーにはなりたくないと思っていたとも話してくれました。

私も試合中、監督に怒られることを避けてプレイをしていた経験がありますが、全日本代表に選ばれ、世界と戦ってきた人ですら、同じ思いをしていたことに正直驚きました。メンタルが強くて、怒号にもひるまず、誰よりも強い「ハングリー精神」で代表の座を勝ち取ってきたと思っていたからです。

そんな益子さんの経験から実現した「監督が怒ってはいけない大会」は、監督が怒ると×マークが描かれたマスクが監督に渡されます。テレビの取材カメラが会場を離れた瞬間に、選手に怒号を浴びせる監督。益子さんからの「いま怒りましたよね」の指摘に「怒ってない、叱ったんだ」と言う監督。でも、選手に聞くと「監督は怒っていた」と言ったそうです。もちろん素直に「はい、怒っちゃいました」という監督もいます。

怒られて委縮し、選手が自分で考えることを放棄すると、いいプレイができないどころか、成長はありません。これは私自身が進学をする中で、違うチームメートや監督と関わる中で実感したことです。私の技術を認めてくれ、任せてくれたチームではお互いが尊重でき、自身のさらなる成長も実感しました。もちろんいい結果にも繋がりました。

「監督が怒ってはいけない大会」での監督とのやり取りを聞き、会社で起こっているハラスメントと重なると感じました。スポーツ大会では、「勝ち負け」があるため、興奮状態になりやすいので分かりやすく、監督本人も周りも認識しやすいですが、会社では声のトーンは変わらず言葉がきつい場合もあり、言われた側も「今の発言はどういう意味合い?」「私の受け取り方が悪い?」と判断を迷うこともあり、周りも目の前に「勝ち負け」のような状況が見えないため、「いま怒りましたよね」と瞬時に指摘することも難しいです。

部下に何度言っても、自分が思うような動きをしてくれないとき、イライラしますよね。自分の指示の出し方が間違っているかもしれないと考えたことがある方は、冷静さもあるのでハラスメントの心配も低いことでしょう。

益子さんも言っていましたが、怒号を浴びせられて嫌な経験をしていても、その怒号おかげで勝ち進めた「成功体験」と今の自分があるのも事実です。ご自身も指導者として選手を怒ってしまったこともあるようですが、怒ることは楽、考えなくていいし、支配下に置くことでみんなが従ってくれるから。でも、怒らず指導してきた時の選手のハツラツさは消えたそうです。

会社が利益を上げて成長しなければ、従業員の給料も引き上げることはできません。成長をするためには、新たなチャレンジや作業の効率化を従業員からも提案してもらわなければいけません。

そんな大事な従業員に怒号を浴びせ、委縮させ、いいアイデアが生まれる可能性を潰すハラスメントは、会社の損失です。役職は単なる役割にすぎないので、部下を支配下に置くのではなく、各々の能力を最大限に引き出せるよう、一人一人と真剣に向き合う役割が、上司なのではないでしょうか。

仕事に「勝ち負け」はありませんが、目標掲げることは必要です。その同じ目標に向かい、ハツラツと仕事をする仲間に囲まれた職業人生は、きっと楽しいと思いませんか。

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