被用者保険の適用拡大による保険料負担を軽減する特例
2025/09/08
令和7年の年金法大改正では、標準報酬月額の上限引き上げや在職老齢年金の停止基準額の見直し、iDeCoの加入可能年齢引き上げや離婚時の年金分割の請求期限延長等、企業や従業員の生活設計に関わる内容が多く含まれています。その中でも特に企業への影響が大きいものとして被用者保険の適用拡大が挙げられます。
社会保険適用事業所に勤める労働者のうち、週の所定労働時間または月の所定労働日数のどちらか片方あるいはその両方が、いわゆる正社員と比べて4分の3未満の短時間労働者のうち、以下の要件に該当する者を「特定4分の3未満短時間労働者(以下、短時間労働者)」といいます。
- 週の所定労働時間が20時間以上あること
- 雇用期間が2カ月超見込まれること
- 所定内月額賃金が88,000円以上であること
- 学生でないこと
令和7年現在、短時間労働者が被保険者とされるのは、この者を除き、社会保険に加入している労働者が50人を超える企業に在籍する者とされています。こちらが⑤点目の企業規模要件です。
今回の改正に伴い、⑤の企業規模要件について短時間労働者を除き、社会保険に加入する労働者の人数によって企業規模が段階的に拡大されることとなりました。
令和 9 年10月1日 35人を超える企業
令和11年10月1日 20人を超える企業
令和14年10月1日 10人を超える企業
令和17年10月1日 撤廃
適用拡大の対象となる比較的小規模な企業で働く短時間労働者に対し、社会保険料負担により手取り額が減少することを懸念して就業時間を減らすことのないよう、事業主が労使折半を超えて一旦負担した保険料相当額を国が制度的に支援する策が設けられました。施行日は令和8年10月1日です。この短時間労働者保険料負担を軽減する特例は事業主からの申出により、その申出から3年間に限って適用される時限措置です。申出は令和9年10月1日以降に適用拡大の対象となる企業で、申出できる期間はそれぞれの拡大時期から2年間です。対象となる被保険者は、標準報酬月額が12.6万円以下の短時間労働者で、軽減割合は標準報酬月額に応じて定められており、賞与に対する保険料は特例の対象外です。
【特例による負担割合】
標準報酬月額 被保険者 事業主
88,000円 25%(37.5%) 75%(62.5%)
98,000円 30%(40.0%) 70%(60.0%)
104,000円 36%(43.0%) 64%(57.0%)
110,000円 41%(45.5%) 59%(37.5%)
118,000円 45%(47.5%) 55%(37.5%)
126,000円 48%(49.0%) 52%(37.5%)
※( )内は申出から3年間のうち、最後の1年間の負担割合です。
特例を利用すると事業主の負担は折半額を超えることがなく、手続きも簡素化される予定です。ただし、あくまで3年間の時限措置の為、労働者のその後の保険料負担に対する手取り額減少をカバーする対策、検討が必要でしょう。
また、③の要件は近年の最低賃金の上昇により、一部都府県では週20時間働くと月額賃金88,000円を超える為、意味を成していません。賃金要件の撤廃も決定していますが、今後の最低賃金の動向を踏まえ、施行日が判断されることになるでしょう。
該当する企業は適用拡大により新たに加入する労働者への説明、雇用契約内容の見直し、保険料負担額のシミュレーション等、余裕をもってご準備頂き、ご不明な点は弊社までお問い合わせください。
厚生労働省:被用者保険の適用拡大について