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派遣から直接雇用に切り替えた後間もなくの雇止めは可能か?

      2016/02/23

Y1(機構)ほか事件 【神戸地判 2013/07/16】
原告:労働者X  /  被告:Y社

【請求内容】
派遣社員として5年弱働き、その後直接雇用されて1年9ヶ月勤務した後の解雇について無効を主張した。

【争  点】
「解雇権濫用法理」の類推適用の際に考慮する「契約期間の長さ」には、派遣として勤務した期間も含まれるのか?

【判  決】
派遣として勤務していた期間は通算されず、勤務期間1年9ヶ月更新1回等では「解雇権濫用法理」の類推適用なし。

【概  要】
Y社に派遣として4年9ヶ月勤務し、その後派遣先に契約社員として直接雇用され、1年9ヶ月勤務した後に期間満了で雇止めされたXが、解雇権濫用法理の類推適用により、本件雇止めには客観的に合理的な理由がなく無効として提訴した。

【確  認】
【雇止め法理の法定化】(労働契約法第19条)  有期労働契約を期間満了の際に更新しないことは、解雇ではなく「雇止め」であるため、原則「解雇権濫用法理(労働契約法第16条)」は適用されない。しかし有期労働契約でも、一定の条件(簡単に表現すれば以下のとおり)にあてはまる場合は「解雇権濫用法理」が類推適用される。これを「雇止め法理」という。
①複数回更新されていたり、更新手続きが粗雑であった場合など、実質的に無期雇用と同じであるといえる場合
②労働者が「次も更新されるだろう」と期待してしまうような言動を、使用者がとっていた場合
(「君にはずっと働いていて欲しい」「何か特別なことがない限りは当然に更新されるから安心して」など)

 

【判決のポイント】

【本件の考え方】雇止め法理の①または②に該当するのかを検討する
⇒該当する場合は「解雇権濫用法理」を適用。
【解雇権濫用法理】解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。(労働契約法第16条)

■本件有期労働契約は、上記①「実質的に無期と同じであるといえる場合」にあたるか?
①業務は臨時ではなく恒常的なものだが、教育業務には従事しない等一般社員と同一ではなかったこと
②雇止めまでの勤務年数は1年9ヶ月にすぎず、契約更新回数も1回にとどまっていたこと
(派遣として勤務していた期間の雇い主は「派遣元」であるため、その期間は勤務期間として通算しない。)
⇒ 以上の点から、「実質的に無期と同じであるといえる場合」にはあたらない。

■本件は、上記②「使用者が労働者に更新の期待をさせるような言動をとっていた場合」にあたるか?
①労働契約書には「更新を行う場合あり」と書かれており、更新する場合の基準を明確に記載していたこと
②安易な発言で更新への期待を抱かせることのないよう、管理職に説明文書を配って注意喚起していたこと
⇒ 以上の点から、「更新の期待をさせるような言動をとっていた場合」にはあたらない。

よって、本件雇止めには「解雇権濫用法理」の類推適用はなく、その場合に有期労働契約を更新するか否かは、会社の自由裁量に委ねられているものであるから、本件雇止めが不法行為となる余地はない。

【SPCの見解】

■本来、有期雇用は「契約期間が満了したら終了するもの」であるため、更新するか否かは当事者の自由である。しかし何回も更新され、長年雇用されていた場合は、実質として無期雇用と同様の状態にあるといえるため、無期雇用者の解雇と同様に厳しい基準で雇止めの可否について判断すべきであり、使用者が自由に雇止めすることはできない。本件は無期雇用と同様の状態にあるとまではいえないため、原則どおりの「更新自由」判断がなされたが、派遣から直接雇用に切り替えてもいいと思える程度にはXのことを評価していたことは明白で、この点をもって「契約更新に期待を持たせた」と判断されてしまう可能性もある。上記①と②の条件には日頃から注意する必要がある。

労働新聞 2014/7/21/2977号より

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