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退職から団体交渉申入れまでの合理的な期間とは?

      2016/02/23

ニチアス事件 【東京地判 2012/05/16】
原告:労働組合  /  被告:国

【請求内容】
不当労働行為(団交拒否)に対する県労委の救済命令を中労委が取り消した為、国に中労委命令取消しを求めた。

【争  点】
本件団体交渉拒否には正当な理由があるか?(団体交渉を義務づけられる相手方か?義務的団体交渉事項か?)

【判  決】
会社は本件団交に応じる義務があったが、団交拒否には正当な理由があったとして不当労働行為ではないとした。

【概  要】
過去にアスベストばく露作業に従事していた元従業員らが、会社を退職してから25~50年経過したのち労働組合を結成し、ばく露被害について労災保険給付を受けられない者への補償制度を作ることなどを求めて団体交渉の申入れを行った。しかし、元従業員らは極めて粗暴な脅迫的言動を繰り返しており、会社は正常な協議ができないとして交渉を拒否した。本件団交拒否は不当労働行為であるとして県労委は救済命令を発したが、中労委がこれを取消した。

【確  認】
【使用者が団体交渉を義務づけられる相手方(救済適格)とは?】
労働組合法第7条第2号によると「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」は不当労働行為となる。「使用者が雇用する労働者の代表者」とは、原則として今現在雇用している労働者のことをいうが、以下のような場合は、退職した元従業員も「使用者が雇用する労働者の代表者」にあたる。
解雇の効力や退職の条件等の紛争の場合
雇用関係継続中に個別労働紛争を含む労働条件等に係る紛争が顕在化していた問題についての紛争の場合
生命・健康に関わる重要案件で、退職前に紛争が顕在化しなかったことがやむを得ない場合(中労委見解)

 

【判決のポイント】

【不当労働行為制度による救済になじむ紛争か?】
<判断基準>
①団体交渉の主題が雇用関係と密接に関連して発生した紛争に関するものであること
②使用者において、当該紛争を処理することが可能かつ適当であること
③団体交渉の申入れが雇用関係終了後、社会通念上合理的といえる期間内(※)にされたこと

<合理的といえる期間内とは?>
合理的な期間とは、通常「雇用契約終了後の近接した期間」をいうが、結局は個別事案に即して判断するしかない。
他の判例では、退職後6年ないし9年経過した元従業員でも「使用者が雇用する労働者」にあたると認定したものもある。(住友ゴム工業事件 大坂高判平21.12.22)
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石綿関連疾患は、石綿を吸ってから発症するまでの潜伏期間が長い(20~60年)ため、退職後25~50年経過していたとしても救済適格が失われる訳ではないとして、元従業員らを「使用者が雇用する労働者」にあたると認定した。
但し、元従業員らが退職してから長期間経過していたことから、会社が彼らを労働者代表として扱うか疑問を抱いても当然であり、さらに彼らが極めて粗暴な脅迫的言動を繰り返していたことから、会社が正常な協議が出来ないとして団体交渉を拒否した判断は合理的で、労働組合法上の「正当な理由」に基づく団体交渉拒否であるとした。
⇒救済適格の判断が困難な場合、少なくとも会社は団交に応じるか検討が出来、直ちに応じないことも許容される。

【SPCの見解】

■本件は、退職者の救済適格を認め団交に応じる義務があったとした上で、しかしこれを拒否したことには正当な理由があるとして、結果的に不当労働行為ではないとした点が非常に特徴的である。通常の退職後の団体交渉であれば、退職後50年も経過してからの団交はまず認められないであろうが、今回はアスベスト被害救済に関する団交であったため、例外的に認められたというべきである。また、今回の元従業員らは非常に言動が粗暴でまともな協議が難しいと考えてもやむを得なかったという事情が重なったため、より会社側に有利に働いたという点も重要である。正当な理由があれば団交拒否は可能だが、正当な理由か否かの判断は難しい為、団交拒否はリスクが高いだろう。

労働新聞 2012/12/03/2899号より

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