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うつ病による急性アルコール中毒死と業務の因果関係

      2016/02/23

フォーカスシステムズ事件 【東京高判 2012/03/22】
原告:従業員X  /  被告:会社

【請求内容】
Xが急性アルコール中毒で死亡したのは、過労による精神疾患が原因として、両親が会社に損害賠償を請求した。

【争  点】
①死亡と業務の因果関係の有無 ②会社の予見可能性と安全配慮義務違反の有無 ③損害の過失相殺の有無程度

【判  決】
長時間労働について会社の安全配慮義務違反を認めたが、本人も睡眠不足解消を怠ったとして3割過失相殺した

【概  要】
Xは業務内容からもともと残業や徹夜が多かったが、担当業務を変更された後は自宅で疲れた様子をみせるようになり、休日も家で寝続けることが多くなっていった。ある朝Xは出勤するかのように家を出たが、無断欠勤して河川敷で過剰飲酒し、意識不明で倒れているところを発見され、既に死亡していた。Xの両親は、Xが長時間の時間外労働等のストレスにより精神障害となり、過剰飲酒をしたとして会社に損害賠償を請求した。

【確  認】
【長時間労働と労災認定】長時間労働に起因する労災には主に以下の2種類があり、それぞれ基準が異なっている。
脳・心臓疾患の労災認定・・・①発病直前の1か月間に概ね160時間を超える時間外労働を行った場合。
②発病直前の連続2か月間に、概ね120時間/月以上の時間外労働を行った場合。
③発病直前の連続3か月間に、概ね100時間/月以上の時間外労働を行った場合。
精神疾患の労災認定・・・ 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、概ね45時間/月を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まる。発症前1か月間に概ね100時間または発症前2か月間ないし6か月間にわたって、概ね80時間/月を超える時間外労働が認められる場合には、業務と発症との関連性が強いと評価される。

 

【判決のポイント】

①死亡と業務の因果関係の有無
■Xは、長時間労働(月あたり100~110時間程度)、配置転換に伴う業務内容の変化・業務量の増加等の業務に起因する心理的負荷等が過度に蓄積したために精神障害(うつ病及び解離性逓走)を発症し、正常な認識と行為の選択が著しく阻害された状態で過度の飲酒行為に及んだため急性アルコール中毒から心停止に至り死亡した。
■Xは精神障害(うつ病及び解離性逓走)を発症し、業務以外の発症要因は見当たらない。
⇒ 以上から、Xの精神障害の発症は会社の業務による心理的負荷に起因し、業務との相当因果関係が認められる。

②会社の予見可能性と安全配慮義務違反の有無
■使用者は、Xの業務が精神障害発症など心身の健康を損ねるおそれのあることを認識し又は認識し得たにもかかわらず、心理的負荷等を軽減させる措置を採らなかった。
⇒ 従業員に対する安全配慮義務に違反しており、Y社は不法行為(使用者責任)に基づきこれにより発生した損害を賠償する責任がある。

③損害の過失相殺の有無程度
■Xが帰宅後、ブログやゲームに時間を費やしていたことや、自ら不調を申し出なかったことは、過失相殺事由として考慮すべきとして3割(1審では2割であった)を減額すべきとした。

【SPCの見解】

■今回は「(自殺や病死ではなく)過剰飲酒の後に死亡したこと」「本人の落ち度による過失相殺が認められたこと」 が特徴的な判例である。医学的な死因は不詳とされたが、精神障害の発症と過度な時間外労働時間の事実があるだけでも業務起因性は認定される可能性が高まるので注意が必要である。時間外労働が100時間/月を超えると、会社の責任は逃れられないと考えた方が良いだろう。また、今回は本人にも睡眠不足の解消の努力を怠ったという落ち度があったため過失相殺されたが、それでも会社の賠償額は4000万円以上であり、労働者の過労死は会社にとって大きなリスクであると認識すべきである。常日頃から従業員の時間外労働の長さや精神状態を把握することが求められる。

労働新聞 2012/11/26/2898号より

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