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労使双方の権利と義務

      2016/02/23

山口工業事件 【東京地判 2011/12/27】
原告:元支社長X  /  被告:Y社(反訴)


【請求内容】
XはY社に対し未払い賃金を請求したが、Y社はXに横領や背任行為があったとして損害賠償を反訴した。

【争  点】
XがY社の業務委託先の丁社から定期的に定額の報酬を受け、丁社のために行動したのは利益相反行為・背信行為か?

【判  決】
Xが丁社から受け取った報酬はY社と丁社との業務委託契約に関連したものであり背信行為として不法行為にあたる。

【概  要】
Y社がXの背信行為を理由にXに賃金を支払わなかったため、Xは1ヶ月分の未払い賃金支払いを求めて提訴したが、Y社はXが在職中に(Y社の業務委託先である)丁社から毎月10万円を受取り丁社の利益のために行動したことは、利益相反行為・背信行為として不法行為にあたると主張し、損害賠償請求を求めて反訴した。Xは退職後起業し、Y社の顧客に「Y社は財務状況が困窮しているため自分は別会社を新設する」という旨の挨拶状を発送した後、Y社を退職した。

【確  認】
【利益相反行為】
当事者の一方の利益が、他方の不利益になる行為のこと。今回のケースでは、Xが丁社の利益のために行動したことにより、本来Y社に入るべき利益がXに渡った(売上金の不法取得)ため、Y社の不利益になっていたといえる。
【背任行為】
刑法に規定された犯罪類型の一つで、他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えること。ただし今回は犯罪としての刑事事件ではなく、民事事件として損害賠償を請求した。

 

【判決のポイント】

【報償責任】
【労働契約上の労使双方の義務とは】
<使用者>(基本的義務)賃金支払義務  (付随義務)安全配慮義務
<労働者>(基本的義務)労務提供義務  (付随義務)誠実義務、職務専念義務、企業秩序遵守義務

<X⇒Y社の1ヶ月分の未払い賃金支払い請求について>  例えXが背信行為をし、退職時に十分な引継ぎをせず、退職後にY社と競合関係になるといえども、それを理由に賃金の支払いを拒む理由にはならないとしてY社に未払い賃金の支払いを命じた。

<Y社⇒Xの利益相反行為・背信行為に対する損害賠償請求>  丁社からの賃金についてXは「丁社の業務を行なったアルバイト料である」と主張したが、裏付けもなく不自然で信用できないとして、Xの得た報酬は「Y社と丁社の業務委託契約に関連して受け取ったもの」と推認すべきとした。  さらにXの退職時の行動も、Y社の取引先を自分の新規事業のためにまるごと奪うための行動であり、この点も背信的意図を基礎付けるものである。もし、XがY社の利益の最大化のために行動していれば、丁社がXに支払った350万円はY社の利益となるはずであったものであるので、その全額がY社の損害にあたる。
よってXの行為は「Yに損害を与える意図で行動し、結果的にY社に損害を与えた」ため、利益相反行為、背信行為として不法行為にあたるといえる。Xは丁社以外にも15社分の売上金を不法に取得したとして訴えられたが、そのうち2社以外は立証不十分で棄却された。今回のXの行為は刑法の「背任罪」にも該当する可能性があるため、Y社が被害届提出や告訴をしていれば、Xの不正取得の認定額は違った金額になったであろう。

【SPCの見解】

■労働関係の法令は、「労働者保護」の観点から労働者の権利と使用者の義務を明記したものがほとんどであるが、労働者の義務も判例によって形成されており、就業規則に「服務規律」等として規定しておけば、違反した労働者  を懲戒処分することができる。さらに今回のように、会社に金銭的な損害が発生している場合は、損害賠償の請求  も認められる。ただし、例え労働者に服務規律違反や背信行為があっても、労働の対価である賃金を支払わないと  することは使用者の基本的義務である「賃金支払義務」違反となるため認められず、損害賠償と相殺することもできない(労基法24条1項「全額払いの原則」違反)。「賃金」と「違反による損害賠償」は別で考えるべきである。

労働新聞 2012/9/3/2887号より

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