労務相談、管理者研修、未払い残業代請求対策なら労務管理センター

請負契約なのに何故「労働者」になってしまうのか?

      2016/02/23

末棟工務店事件 【大坂地判 2012/09/28】
原告:X  /  被告:Y社

【請求内容】
顧客とのトラブルを理由にXの「外注費」名目の15万円カットしたことは、不当な賃金減額として支払いを求めた。

【争  点】
XはY社の労働者なのか? それともY社から業務を委託された個人事業主なのか?

【判  決】
XとY社の間に指揮命令関係はないためXは労働者ではなく、月額30万円の雇用契約が成立していたとはいえない。

【概  要】
Y社は、Xが行うIT関連の個人事業Cとの間で『Y社がXに対し「基本給」「外注費」の名目で各15万円(合計30万円)を支払う』こととしていた(但し、特に契約書等の書面は交わしていない)。
その後Y社は、XがY社の取引先とトラブルになったことを理由に、Xに対する支払額を「基本給」名目の15万円のみに減額した。それに対してXは「自分はY社の従業員であり、賃金30万円で雇用されている」と主張し、減額前の30万円の賃金支払いを求めた。

【確  認】
【労働者性の判断基準】※契約書の題名などではなく、以下の基準に従い労働内容の実態で判断される。
1)仕事の依頼、業務の指示などに対する諾否の自由の有無
2)業務内容や遂行方法に対する指揮命令の有無
3)勤務時間や勤務場所の拘束の有無(または程度)
4)代替性の有無
(本人に代わって他の者が労務提供することや自分の判断で補助者使用が認められているか? )
5)報酬の労務対償性の有無
(報酬が労働時間に応じて支払われている、残業した分が別の手当で支払われる、等)
6)事業者性の有無(機械、器具を自ら所有していたか?報酬の額が正規従業員と比べて高額か?、等)

 

【判決のポイント】

※ 本件は、X(事業Cを行っている)がY社から「労働者としての基本給」と「事業者としての外注費」の両方を支払われていたことに特徴があり、Xを「労働者」と見るか、「事業主」と見るかによって判断が異なる。


【Xが完全にY社の労働者である場合】
「基本給・外注費」等の名目に関係なく全て賃金としてY社に請求できる。
【Xに事業者性が認められた場合】
少なくとも「外注費」については賃金ではなく当然に請求できるものではない。


<労働者性が強いと判断される要素> (※しかし別の解釈により、労働者性を強める要因としては弱い)
①Xの事業Cの経費はY社が負担しており、Cの売上げがXの自由にならなかったことは、Cの独立性がなかったといえる。
【別の解釈】
しかしY社がCに業務をアウトソーシングしていたと評価することも可能で、そうであれば特段不合理ともいえない。
(経費負担や利益の分配に関する合意内容と雇用契約の成否とは直接結びつくものではない、としている)
<事業者性が強いと判断される要素>
②Xの勤務場所はY社によって用意されており、Y社の従業員とは明らかに異なる取扱いを受けていた。
③Xは平日であっても、日中明らかに私用と認められる行動をしていた。
(通常、労働者であれば認められない)
④Xが月額30万円の資金援助と雇用保険等の加入を求めたのに対し、Y社が基本給15万円のみについてこれを受入れ、残り15万円については将来の減額もあり得るものとして「外注費」名目とした、というY社の供述は信用性が高い。
(仮にXが月額30万円の固定給で入社したつもりならば、給与の一部が「外注費」名目であることに抗議するはずである)
【結論】
(実態から判断するに)XとY社の間に指揮命令関係が成立していたとはいいがたく、XとYとの間で賃金月額30万円とする内容の雇用契約が成立していたとはいえない。

【SPCの見解】

■個人事業主や一人親方と取引をする場合、請負による業務委託をしているつもりでも、実態が「労働者性が強い状 態」と判断されれば、それは「偽装請負」である。その場合、ある日いきなり「私はあなたの会社の労働者です!」と主張され、労働者としての権利を主張されることがあるので注意が必要である。正しい請負(業務委託)であれば、原則自由に業務委託契約を解除することができるが、取引相手が労働者だったと判断された場合は「契約解除」は「解雇」であり、容易には認められない。「請負」という形態は会社にとって都合がよいため安易に利用されがちだが、訴えられて覆った場合のリスクは大きいため、上記判断基準に従い十分に検討していただきたい。

労働新聞 2013/6/3/2923号より

 - , , ,

CELL四位一体マトリック
労働判例