警備員が仮眠時間中も対応必要と割増賃金請求
ジャパンプロテクション事件【東京地判 令和6年5月17日】
【事案の概要】
ビルの夜間警備員が、仮眠時間は労働時間に当たると主張し、割増賃金等の支払いを求めてY社を提訴した。
その他として、1ヶ月単位の変形労働時間制の適用の有効性、調整手当を固定残業代とすることの有効性も提訴された。
【判決のポイント】
1.仮眠時間について
令和2年3月までの管理業務については、従業員2名で対応し、機械による発報があった場合は委託先に駆けつける業務が含まれていたが、契約件数は3件と少なく、ほとんど発報のない状況であった。
その他、巡回やデータ入力を行うなどの業務も含まれるものの、2名体制の場合は1人が仮眠を取る場合に、もう1名がこれらの業務を行うことができ、不活動仮眠時間は労働からの解放が保証されているとみるのが相当である。
令和2年4月以降は1名でY社宛の電話対応や巡回、データ入力、欠勤等の連絡があった場合の連絡、訪問者の出入管理、モニター監視等を行うなどの業務であったこと。
業務回数3から4回程度にイレギュラーな電話対応をすることが1回程度存在していたことからすると、仮眠時間中に実作業への従事の必要が生じることが皆無に等しい状態にあったとは考え難く、労働時間として肯定する。
2.変形労働時間制の適否
Y社は事前に勤務表を作成し、各従業員へ配布をしているが、就業規則において始業終業時刻、各勤務の組合せの考え方、勤務表の作成手続きおよび周知方法が定められておらず、変形労働時間制は認められない。
3.調整手当が固定残業代にあたるか
平成25年と令和元年の雇用契約書には、「調整手当が固定残業代である」旨が記載されており、Xはこれに署名押印している。しかし、調整手当を固定残業代と考えると、その他の基本給や各手当を合計した額を平均所定労働時間で除すると、令和2年3月~令和3年8月の当時の東京都の最低賃金を下回る。
このような条件をXが承諾するとは考え難い。また、基本給はほとんど増額せず、調整手当が増額するなどの経緯を踏まえると、調整手当は通常の労働時間に当たる部分が含まれるとみるのが相当である。
調整手当は固定残業代として認められない。
【SPCの見解】
労働時間については、大星ビル事件(平成14年2月28日最高裁判所第一小法廷)にて、最高裁の判断が示されています。
本件も労働からの解放が保障されているかを、何名体制であったか、仮眠時間中の対応の頻度、義務付けの程度など具体的に検証し、総合的に判断しています。
この点は各企業や各事業場によって異なってくるので、詳細に確認しておくことが求められます。
変形労働時間についても勤務表を配布するだけでは足りず、その内容を就業規則に明記することが重要になります。
同時に、支払っている手当(本件では調整手当)が固定残業代と認められるためには、賃金規程への記載はもちろんのこと、明確に区分して分かるようにしておくことにも留意が必要です。