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■配置・出向・転籍

      2016/02/21

配置・出向・転籍については、以下の条文・解釈を確認しておきたいと思います。

民法625条1項「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。」

労働契約法14条「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効となる。」

労働契約承継法3条により、「企業分割という手法を使うと、分割された事業に主として従事する労働者の労働契約が、分割計画書等に承継対象とされると、その労働者の同意がなくても、労働契約は承継される」ことになる。

今回取り上げる最高裁判例等は、次のものです。
配転命令権の有効性~東亜ペイント事件(最高裁昭和61年7月14日判決)
出向命令権の有効性~新日本製鐵(日鐵運輸第二)事件(最高裁平成15年4月18日判決)
転籍命令権の有効性~三和機材事件(東京地裁平成4年1月31日判決)

東亜ペイント事件-「転勤命令権の有効性」
Y社は大阪に本店を置き、全国数十ヵ所に支店・営業所を有する会社で、塗料および化成品の製造、販売を行っていた。就業規則には「業務の都合により異動を命ずることがあり、社員は正当な理由なしに拒否できない」と定められ、実際に営業部員を中心に転勤が頻繁に行われていた。
Xは、大卒者として入社後約8年間営業を担当していた。Y社では、広島営業所の主任ポストに空きが生じたため、その後任として、当時、神戸営業所で主任待遇として勤務していたXに転勤を内示した。
Xは、大阪を離れたことのない71歳の母がおり、妻は保育所の運営委員を務めていて仕事を辞めるのは困難であるなどの家庭事情があるとしてこれを拒否した。
Y社は、名古屋営業所の主任を広島営業所の後任に充て、Xには名古屋営業所に転勤するように説得した。Xはこれにも応じなかったが、Y社は、Xの同意を得ないまま名古屋営業所への転勤を発令し、Xはそれに従わなかったために懲戒解雇された。
Xは、本件転勤命令は無効であり、懲戒解雇も無効であるとして、労働契約上の地位確認などを求めて訴えを提起した。第一審(大阪地判昭57.10.25 労判399-43)および第二審(大阪高判昭59.8.21 労判477-15)は、本件転勤命令は権利濫用で無効であるとし、Xの請求を全面的に認容した。そこで、Y社は上告した。結果、一部破棄差戻しで、本件転勤命令には業務上の必要性が優に存在し、Xに与える家庭生活上の不利益も通常甘受すべき程度のものであるから、権利濫用に当たらない、とした。
<判決からのメッセージ>
「大卒資格の営業担当者として入社したXとの間には、特に勤務地の限定する合意がないということから、Y社側はXの同意なしに勤務地を決定する権限を有するものというべきである」。
「当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用となるものではない」。「業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである」。
→勤務地を限定する合意があれば、それだけで転勤命令権は否定されることになる。転勤命令が権利濫用となる場合として、①業務上の必要性が存しない場合、②不当な動機・目的がある場合、③通常甘受すべき程度を著しく超える不利益がある場合をあげている。①については、「余人をもって容易に替え難いといった高度の必要性」に限定されず、「企業の合理的運営に寄与する点」があればよいとしており、通常のローテーション人事であれば肯定される。②については、反労働組合的・報復的・退職を強要する目的などの場合がこれにあたる。③については、裁判所はこれをなかなか認めない傾向にあり、基準への該当性が実際上の争点となっている。
<メッセージに対する私的見解>
「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」の有無の判断にあたり、労働契約法3条3項で規定されている「仕事と生活の調和に配慮」(いわゆるワーク・ライフ・バランス)の考え方が、配転においても考慮される基準になると思います。
ただ、日本も「どんな会社にいましたか」から「どんな仕事をしていましたか」が問われる時代になってきています。仕事を通して自身のキャリアを向上させる視点からいえば、配転にノーを言っている時間はないのでは、と強く思います。

新日本製鐵(日鐵運輸第二)事件-「出向命令権の有効性」
大手鉄鋼メーカーY社は、昭和50年代からの構造的不況に加え、昭和60年代の急激な円高により経営が悪化したことから、要員削減を中心とした合理化計画としての中期的な経営計画を策定し、その構内輸送業務のうちの鉄道輸送部門を協力先A社に業務委託するとともに、A社には従業員であるXらを、Y社に籍を置いたまま出向させることとした。
XらはY社のP製鉄所に昭和36年頃から勤務し、Y社の社員を組織するB組合に所属している。業務上の都合により社員に社外勤務をさせることがあるとの規定が、Y社の就業規則にはXらの入社当時から存在する。これと同旨の規定をもつ労働協約が昭和48年4月にY社とB組合との間に締結されるとともに、出向期間を原則3年とする、業務の必要性により期間を延長することがある、などの規定からなる社外勤務協定が昭和44年9月には締結され、それぞれ更新を重ねている。
本件出向措置をとるうえで、Y社は、B組合と交渉をし、その同意を得ており、そのうえで具体的な基準を立て、Xらを含む141名を選んだ。Y社は選択された従業員に対し、個別に出向先での労働条件を提示して話し合いを実施したところ、Xらを含む4名だけが出向に同意しなかった。Xらは不承諾のまま、出向措置に従ったうえで、出向命令の無効確認を求めて訴えを提起した。なお、本件出向措置は、3年ずつ3回延長されている。第一審と原審は、Xらの請求を棄却したので、Xらは上告した。結果、最高裁は、出向命令の有効性を認め、出向先での就労義務がないことの確認を求めた労働者側の請求を棄却した。

<判決からのメッセージ>
「本件各出向命令は、Y社が一定の業務を協力会社であるA社に業務委託することにともない、委託される業務に従事していたXらにいわゆる在籍出向を命ずるものであること、Xらの入社時および本件各出向命令発令時のY社の就業規則には社外勤務規定として同旨の規定があり、労働協約にも社外勤務条項として同旨の規定があり、労働協約である社外勤務協定において、社外勤務の定義、出向期間、出向中の社員の地位、賃金、退職金、各種の出向手当、昇格・昇給等の査定その他処遇等に関する出向労働者の利益に配慮した詳細な規定が設けられている、という事情がある」。
「Y社が構内輸送業務のうち鉄道輸送部門の一定の業務をA社に委託することとした経営判断は合理性を欠くものとはいえず、これに伴い、委託される業務に従事していたY社の従業員につき出向措置を講ずる必要があったということができ、出向措置の対象となる者の人選基準には合理性があり、具体的な人選についてもその不当性をうかがわせるような事情はない。また、本件各出向命令によってXらの労務提供先は変わるものの、その従事する業務内容や勤務場所には何らの変更はなく、上記社外勤務協定による出向中の社員の地位、賃金、退職金、各種の出向手当、昇格・昇給等の査定その他処遇等に関する規定等を勘案すれば、Xらがその生活関係、労働条件等において著しい不利益を受けるものとはいえない。そして、本件出向命令の発令に至る手続に不相当な点があるとはいえない。これらの事情にかんがみれば、本件各出向命令が権利の濫用に当たるということはできない」。
→出向命令の法的根拠としては、民法625条1項が適用され、労働者の承諾を必要とする見解が多いが、本判決は、結論として、労働者の個別的同意なしに就業規則や労働協約に規定することによる包括的同意で出向命令を発することが出来ると判断している。また、本判決は、業務委託を決めた経営判断は合理性があり、それにともなう出向措置を講ずる必要があったこと、人選基準には合理性があり、具体的は人選についてもその不当性をうかがわせるような事情がないこと、本件出向命令によってXらの労務提供先は変わるものの、その生活関係、労働条件等において著しい不利益を受けるものとはいえないこと、手続に不相当な点がないこと、これらの事情を考慮すれば権利濫用とはいえないと判断している。
<メッセージに対する私的見解>
出向とは、出向元と出向先の両方と雇用関係を結ぶ契約形態であり、ビジネス(利潤)を目的とする出向は職業安定法44条により禁止されています。よって、出向が在籍出向であり(片道切符ではなく)、出向先での労働条件の不利益が無く、出向期間、出向目的が明確であり、中間搾取のようなコンプライアンス上の問題がなければ、企業は自信をもって出向命令を就業規則に基づいて発令できると考えます。また、労働契約法14条により、「出向命令の権利濫用性」が触れられていますが、出向により労働条件が大幅に低下せず、出向者の生活に著しい不利益を生じさせなければ「個別同意」無しに発令できる根拠条文にしてもよいと思います。

三和機材事件-「転籍命令権の有効性」
Y社は和議手続を進める中で、同社の営業部門を独立させて新会社A社を設立し、Y社の営業部門の労働者Xら全員に対してA社への転籍を内示した。
Y社は本件転籍について、B労働組合と団体交渉を行ったが、合意に達しなかった。その後、Y社の営業部所属の労働者は、Xを除きすべてが転籍に同意したが、B組合の書記長であったXは、B組合に任せていることなどを理由としてこれに反対した。Y社は、Xの説得を続けたが、結局、本人の同意のないまま、転籍命令を発した。Xはこれに従わなかったため、Y社から「業務上の指揮命令に違反したとき」に当たるとして、懲戒解雇された。そこで、Xは、懲戒解雇が無効であるとして、地位保全および賃金仮払いの仮処分を申し立てた。
Xの主張に対し、Y社は、Y社とA社とは法人格こそ別であるが実質的には同一会社であり、労働条件に差異はなく、転籍は配転と同じ法理により会社の有する包括的人事権に基づいて労働者の同意なしに命じうることなどを主張した。
結果、賃金仮払いは申請認容。地位保全申請は却下された。

<判決からのメッセージ>
「転籍出向は出向前の使用者との間の従前の労働契約関係を解消し、出向先の使用者との間に新たな労働契約関係を生ぜしめるものであるから、それが民法625条1項にいう使用者による権利の第三者に対する譲渡に該当するかどうかはともかくとしても、労働者にとっては重大な利害が生ずる問題であることは否定し難く、したがって、一方的に使用者の意思のみによって転籍出向を命じ得るとすることは相当でない」。
→転籍は、労働者に与える不利益の度合いが出向の場合より大きいと考えられるため、事前の包括的同意や就業規則・労働協約の規定に基づいて有効と認められる場合はほとんどない。個別の労働者の承諾を得て行うべきである。
<メッセージに対する私的見解>
具体的に労働者のどのような「同意」が必要なのでしょうか。それは、在籍企業と転籍先企業における「労働条件」に左右されると思います。さらには、将来起こりうる転籍先での「労働条件」をも踏まえて「同意」をとらないと、在籍労働者のモチベーションにも影響していきます。“出してしまえば、関係ない”では、安心して働けないということです。ただ、現在では、事業部門の分社化を行うためには、企業は会社分割という手法を使うことが出来ます。その手法を使うと、分割された事業に主として従事する労働者の労働契約が、分割計画書等に承継対象とされると、その労働者の同意がなくても、労働契約は承継される(転籍が認められる)ことになります。

昨今の裁判例を見ていきます。
同意のない転籍命令の有効性~日本電信電話事件(東京地裁平成23年2月9日判決)
会社は、平成11年7月の再編成により、NTT東日本への人員移行が不可避となったことから、原告を含む全社員に対し、周知した上でNTT東日本等分割会社への転籍命令を包括発令した。原告はこれに同意しなかったが、転籍後のNTT東日本にて約8年間業務に就き、賃金・賞与・退職金を受け定年退職した。その後原告は、転籍前の会社での再雇用による地位確認と、復籍要求を無視し続けたことによる損害賠償等を求めた。結果、転籍は無効だが、定年後再雇用制度による再雇用と損害賠償は認められない、とされた。
<判決からのメッセージ>
1.転籍が無効であるとされた理由
転籍は、現在の労働契約を終了し新たな労働契約を締結するものであるので、転籍命令が有効であると言うためには当事者の明確で積極的な意思表示が必要であると解されるため。よって、同意のないまま転籍先で就業していることを「黙示の同意」と認定することは慎重に行うべきである。
2.転籍前の会社での再雇用が認められなかった理由
転籍が無効であったからと言って、転籍前の会社での定年後再雇用制度による再雇用が当然に認められるという訳ではない。なぜなら、高年齢者雇用安定法が求めているのは「継続雇用制度の導入」であって、定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務づけるものではなく、再雇用される者の条件も事業主の合理的な裁量の範囲で定めることができるからである。今回、転籍前の会社は「研究所勤務を経験した者」を再雇用の条件としており、原告にはその経験がなく、当時原告が勤務可能な「業務」も「勤務場所」も存在しなかった。
3.損害賠償が認められなかった理由
原告は、会社が無効な転籍命令を発し、復職要求を無視し続けたことによる損害賠償を求めたが、会社に損害賠償を負担させなければならないほどの精神的損害が生じたことは認定しがたいとした。
<メッセージに対する私的見解>
原告は転籍後の会社で約8年間も勤務しており、同意がなかったことのみをもって転籍を無効とする今回の判決には、いささか疑問を感じます。しかし、転籍命令を出す際には、今回のような全社員への「包括発令」とするのではなく、個人の同意をきちんと書面の形で取っておくことが重要だと思います。
また、今回、転籍は無効とされながらも、高年齢者雇用安定法は制度の導入を義務づけているのみであり、全ての従業員を65歳まで働かせることを義務づける主旨ではないため、結果的に原告の請求は認められませんでした。しかし、もし継続雇用制度の導入自体をしていなかったり、再雇用の条件が著しく不合理である場合には、不法行為として損害賠償の対象となる場合もあるため、注意が必要です。

最後に、今回の判例による留意点をまとめてみました。また、規定化もしてみました。参考にして下さい。
・就業規則または労働協約はいずれも個別の承諾に代わり得る出向命令の根拠になる。
・転籍は、個別の労働者の承諾を得て行うべきである。
・会社分割にともなう労働契約の承継については、労働者に承継拒否権はない。

(異動)
会社および業務の都合により、職場・勤務地の変更、職種の転換、応援、出向、出張(以下、「異動」という)を命ずることがある。
(2) 異動の命令を受けた従業員は、原則として転勤の場合は7日以内に、その他の場合は命令を受けた異動日に新職場に就かなければならない。その際、離任までに後任者が適正に業務を遂行できるように業務の引継を行わなければならない。
(3) 第1項の異動に応じて、勤務時間や賃金等の労働条件に変更を伴う場合がある。なおその際は、文面にて通知するものとする。
(4) 従業員の異動は次の場合に行います。
1,人材育成計画に基づいてジョブローテーションを行う場合
2,適材適所の配置のため、適職と認められる職務に変更する場合
3,人事の異動または交流によって業績向上が図られると会社が認めた場合
4,事業場の新設、廃止、移転等のため、人事異動が必要となった場合
5,昇格、降格または職責を罷免された場合
6,事業の拡張または縮小に伴って組織改編を必要とする場合
7,従業員が配置換え等を希望し、会社がそれを認めた場合
8,休職者が復職した場合で、従前の職場に復帰させることが不適当と認められる場合
9,関係会社または他社への出向(在籍出向および移籍出向を含む)を命じた場合
10,その他経営上必要と認められる場合
(在籍出向)
会社は業務上の必要がある場合には、従業員に出向を命ずることができる。従業員は正当な理由なくしてこれを拒否してはならない。
(2) 会社は、次の事項を取り決めて出向を実施するものとする。
1,出向事由
2,出向先
3,労働条件の保障
4,出向期間
5,出向手続
(転籍)
会社は業務上の必要がある場合には、従業員の同意を得て他の会社に転籍を命ずることがある。
(2) 会社が高度の経営危機に陥っている場合は、整理解雇を回避するために従業員に転籍を命ずることがある。その従業員は正当な理由なくこの命令を拒否してはならない。なお、会社は以下の事に留意するものとする。
1,人選の合理性のあること
人選の合理性とは、他の代替者を有することが困難という高度の必要性を要さず、一応の適格性がある場合をいう。
2,手続の正当性があること
会社は、その従業員に対して、転籍の内示をすると同時に本人の事情等を聞き取り、可能な限りの配慮をするものとする。
3,従業員にとって著しい不利益のないこと

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