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一定時間が経過してからの懲戒処分は無効なのか?

      2016/02/23

国立大学法人乙大学事件 【東京地判 2011/08/09】
原告:教師X  /  被告:大学

【請求内容】
同一の事案への二回の懲戒処分は二重処分・信義則違反で無効として、処分の無効確認と停職期間中の給与を請求。

【争  点】
①ミスへの訓告処分と、ミス隠蔽への停職処分は二重処分か?
②ミス発覚から1年後の処分は信義則違反で無効か?

【判  決】
①ミスとミス隠蔽は異なる違反行為であり、二重処分ではない。
②一定期間遅延した処分は信義則違反で無効。

【概  要】
教師Xは入学試験の一部に採点漏れがあったことを知りながら、これを管理職へ報告せず、さらに他の教諭に対し、採点漏れの事実について口止めをして隠蔽した。これに対し大学側は、「採点ミス」について訓告処分(口頭による戒め)を行ったが、その8ヵ月後に「ミス隠蔽」について停職3ヶ月の懲戒処分をした。教師Xは、ひとつの事案(本件採点ミス)について二つの処分がされたことは二重処分ないし信義則違反で無効と主張した。

【確  認】
【懲戒に関するルール】
1)罪刑法定主義・・・懲戒処分が行われる根拠と、それに対する懲戒の種類が就業規則で明示されていることが必要
2)不遡及の原則・・・根拠となる規定が設けられる前の事案に対して遡って適用してはいけない。
3)一事不再理の原則・・・同じ事案に対して、二回の懲戒処分を行ってはいけない。(二重処分の禁止)
【労働契約法15条】(一部省略)
懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

 

【判決のポイント】

1)なぜ「採点ミス」への訓告処分と「ミス隠蔽行為」への停職処分は二重処罰にあたらないのか?
「採点ミス」は単なる過失行為であるが、その後の「ミス隠蔽」は故意行為であり、質的にも大きく異なる重大な規律違反行為である。訓告は「採点ミス」という単なる過失行為のみを対象としており、これに「ミス隠蔽」まで含まれていると解することはできないから、二重処分(一事不再理の原則)には違反しない。

2)なぜ二重処分ではないにも関わらず処分は無効なのか?
①「採点ミス」への訓告処分がされた時点で、「ミス隠蔽」についても十分な証拠が揃っており、その時点で重い処分ができたはずであるにも関わらず、これをしなかった。
② 隠蔽行為は悪質性が高度とはいえない。
③ 訓告処分の時点で更なる処分の可能性を告知していない。
④ 本人に対するその後の「自宅待機命令」「支援室での勤務」等、人事上の不利益が既に科されている。
⇒ 以上の点から、教師Xが「これ以上の処分はないだろう」と信じることに相当な理由(期待)があったのに、その期待を裏切ったことは信義誠実の原則(信義則)に違反し、社会的相当性を欠く懲戒権の濫用であるといえる。

3)なぜ一定期間経過(遅延)してしまった懲戒処分は信義則違反なのか?(学校法人B事件 東京地判H22.9.10)
① 懲戒処分は一種の制裁罰であり、その目的は「企業秩序の維持・回復」である。しかし、期間が経過したことにより企業秩序が回復し、実際に処分する時点ではその「維持・回復」の必要性が失われている場合がある。
② 合理的理由のない懲戒の遅延は、「懲戒処分はされないだろう」という労働者の期待を侵害し、相当性を欠く。

【SPCの見解】

■一つの事犯に対して二回以上懲戒処分をすることは許されないが、今回の「採点ミスという過失」と「ミス隠蔽という故意」が全く別の事実であり、それぞれに懲戒処分を科すことが出来るという考え方は非常に参考になる。二重処分については、他にも判例がある。例えばある事犯について懲戒処分を行ったが、その後も反省の態度が見受けられないということだけを理由としてさらに懲戒をすることはできないとされている。(平和自動車交通事件 H10.2.6)また、過去に懲戒処分を受けたことがある者に対して新たに懲戒処分を科す場合に、全く懲戒処分を受けたことがない者に比べて重い処分をすることまで禁止する趣旨ではないとされている。(甲山福祉センター事件 S58.3.17)

労働新聞 2013/5/13/2920号より

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