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健康経営と睡眠について

   

広がりつつあった「健康経営」も、新型コロナウィルス感染症の流行を機に取り組む企業がさらに増え、今年発表の「健康経営優良法人(中小規模法人部門)2021」の認定数は、前年の4,813社から約1.64倍の”7,934社“でした。

愛知県は前年度同様、大阪に次ぐ全国2位の”927件”の認定で、前年度比約1.57倍でした。県によっては、前年度から2倍以上の企業が認定されており、全国で「健康経営」への関心度が高まっていることが分かります。

健康経営とは、「従業員等の健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」で、企業が従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上などをもたらし、その結果、企業の業績向上や企業価値の向上に繋がると期待されているものです。

これまでも健康を維持するためには「栄養(食事)・運動・休養」の3つの要素のバランスが大事とされてきました。「健康経営」に取り組むにあたり、「栄養(食事)」としては、昼食にヘルシー弁当を注文したり、野菜の摂取を促したり、飲料の砂糖含有量を掲示したり、「運動」としては、毎日の始業前にラジオ体操を取り入れたり、社内ウォーキング大会を開き、運動とコミュニケーション促進の両面での取り組みとしたり、当社のようにストレッチ運動を取り入れたりする企業が事例としても多く見られます。

では最後の「休養」についてはどうでしょうか。ノー残業デーの設置、年次有給休暇の取得促進が多く、最近では昼休憩時に仮眠室を用意したり、デスクで使える昼寝枕を提供したりと、休養=睡眠と捉える企業も目立ってきました。

従業員に「睡眠」を強制的にとらせることは困難なため、どの企業も労働時間削減対策を取ることで“従業員が睡眠を確保できるような、物理的な選択肢を用意する“に留まるのが実態です。今はスマホのアプリで、自身の睡眠状態について管理できるものもありますが、正直なところ自身のベストな睡眠状態が分からないため、いい眠りなのかの判断は素人では難しいと思います。

先日、この「睡眠」に焦点を当てた健康経営関連のWebセミナーがあり、以前から探していた内容だったので、リアルタイムで受講をしました。

日本人の睡眠時間は、ヨーロッパの人に比べると1時間も短いというデータがあります。幼少期の比較でもやはり睡眠時間が短いため、「睡眠不足や睡眠負債に気付きづらい国民性」とも言えるようです。

仕事中の居眠りはよくないことですが、それを見かけたヨーロッパの人は、本気で「あの人は体調が悪いのか」と心配になるようです。確かに残業にしてもそうですが、「昨日は徹夜で仕事した」に対する日本人の多くの反応は「すごく頑張ったね」の称賛の声ではないでしょうか。対してヨーロッパの人の反応は「なんて要領が悪く、仕事ができない奴だ」となるそうです。まさに国民性の違いですね。

乗務中の居眠りで大きな事故を起こしてしまったニュースもありましたね。確かに過剰な時間の乗務によるものであれば、企業の責任は一目瞭然です。物理的に睡眠をとる時間がなかったのです。

しかしながら、最近では「マイクロスリープ」にも注目がされています。ほんの数秒、長くても30秒程度の睡眠状態に陥る現象ことで、皆さん誰もが経験あるのではないかと思いますが、カクッと一瞬眠ってしまうあの現象のことです。

問題なのは、本人に自覚がなくこの現象が起きている場合です。「マイクロスリープ」は、睡眠不足の他に、精神的疲労や睡眠時無呼吸症候群、過眠症といったものが原因ともされています。もし、運転中にこの「マイクロスリープ」に陥ったとすると、どうでしょうか。時速60kmなら1秒間に約17メートル進むため、大変危険なことが分かります。

人間の脳は、起きてから15時間以上経過すると、酒気帯び状態と同じ状態であり、さらに17時間経過すると、ビール大瓶1本飲んだ時と同じ状態と言われています。6時に起きる人ならば、21時を過ぎると正常な判断がされにくい脳の状態になるわけです。

睡眠不足を美徳と捉えがちな国民性があるため、なかなか浸透しづらいようですが、研究者の中では睡眠の重要性を広める活動がされており、近い将来私たちの生活にも、当たり前のこととして落とし込まれる日がくると思われます。

器具を取り付けて眠りを計測し、自身が感じる睡眠状態と客観的なデータとの乖離を比べたり、自身の眠りについての相談ができる店舗が全国に広がりつつあったり…定期健康診断に、睡眠計測サービスを導入する動きも始まっているようです。

「健康経営」の一環としては、従業員に睡眠についての意識改善のきっかけを作るに留まりますが、今後は「休養(睡眠)」の重要性を重視する企業も増えてくると思います。各社の事例を参考に、当社も毎年取組みを検討していますが、睡眠についての事例も、今後多く開示されることを期待しています。

トップダウンではなく、従業員自らが健康を意識し、ワークエンゲイジメントを高めながら仕事をすることで、初めて企業は利益向上が期待できるとされています。心理的安全性が確保された環境で、目に見えて自社の業績が向上すれば、PDCAサイクルも活性化するはずです。取組む意義をまずは従業員に正しく周知し理解を得ることが、「健康経営」達成の近道ではないでしょうか。

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