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会社解散後に主任が代表取締役へ残業代求める

   

そらふね元代表取締役事件【名古屋高裁金沢支判 令和5年2月22日】

居宅介護支援事業等を業とする株式会社で平成27年9月より勤務していた労働者Xが、平成31年3月以降に残業代を支払わないために管理監督者の制度を利用したとし、令和2年6月末をもって解散した会社の元代表取締役Yに対して、会社法429条1項により損害賠償を求めた控訴審である。なお、一審はXの請求を棄却した。

論点が複数存するが、Xの管理監督者性、Yの任務懈怠の有無、任務懈怠につきYの悪意または重大な過失の有無、Yの任務懈怠とXの損害との因果関係に絞って解説します。

【判決のポイント】

  • Xの管理監督者性

Xは営業会議や雇用等について一定の影響力を有していたものの、採用や人事考課まで関与していたとは言えず、シフトも割り当てられており、労働時間について裁量があったとは言えない。給与額についても他と比較して有利な待遇を受けていたとは言い難く、管理監督者であったとはいえない。

 

  • Yの任務懈怠の有無

平成31年3月以降、管理監督者として残業代を支払わないことを決めたものであるから、これ以降の支払わないことはYの任務懈怠に当たる。

 

  • 任務懈怠につきYの悪意または重大な過失の有無

Yは顧問社労士から“管理監督者になれば残業代を支払われなくても良い”と言われたことによりXを管理監督者にしたとする。

管理監督者該当性の判断は容易ではないが、当てはめを誤ったことが直ちに重過失になるわけではない。

Xの業務が管理監督者にふさわしいか相談することなく、単に残業代を支払わなくて済むように制度を利用したに過ぎず、Yに重大な過失がある。

 

  • Yの任務懈怠とXの損害との因果関係

一審では残業代の未払いを会社の事業継続が困難なことが原因としたが、さほど多額とはいえない残業代を支払うことすらできなかった経営状況と認めるに足りる証拠はない。

【SPCの見解】

会社法429条1項は、『役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う』とされています。

 

悪意または重大な過失について、悪意とは行っている行為が任務懈怠行為であると認識していることであり、重大な過失とは著しい不注意によって任務懈怠行為を行った場合のことを言います。

 

本件では、管理監督者該当性の判断を誤ったわけでなく、残業代を支払わなくて済むということが先行し、積極的に制度を利用したとして重過失が認められました。

法人でなく、代表取締役である個人に対して損害賠償請求が認められた事案になる珍しいケースになります。

管理監督者の判断は従前の基準(職務内容/責任と権限/勤務形態/賃金等の待遇面)を慎重に検討する必要があります。

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