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同業他社への引抜き計画に関与した3人を懲戒

      2023/07/26

不動技研工業事件【長崎地判 令和4年11月16日】

【事案の概要】

会社は、機械、土木建築等の設計、製造および販売業務等を業としている。甲、乙、丙の3人は、会社との間で期間の定めのない労働契約を締結し、10年以上働いている。

元従業員Aは、会社の現職従業員らを引抜き、設立予定の新会社(競業業務を行う)へ転職させることを計画し、参加を働きかけた。

会社は、甲らがAと共謀して服務規律および職務専念義務に違反し、損害を与えたとして、甲を懲戒解雇/乙を降格処分/丙を諭旨解雇とした。

甲らは本件各処分が無効と主張し、地位確認および未払い賃金の支払い等を求めた。会社は、甲および乙に対しては予備的に普通解雇したと主張している。

【判決のポイント】

・甲への対応

甲は計画が具体化する当初からAと協議を重ねており、Aと通謀したと認められる。また、面談時に所属課員に対して新会社への転職意向の確認をしたことは、同計画への参加働きかけに当たる。この様な行為は、就業規則119条24号(服務規律違反)に該当する。

しかし、就業規則116条(懲戒の原則)は、服務規律違反については、1項で適切な指導および注意を行い、改善を求める旨を規定し、2項にて改善が行われず、企業秩序の維持のため必要がある場合は、懲戒処分を行う旨の記載がある。

甲への懲戒解雇前に会社が指導、注意をした形跡は認められず、本件懲戒処分は労働契約法15条(懲戒)により無効である。

 

・乙への対応

乙は実際に新会社へ連れていく事ができそうな部下の名前を挙げ、計画にも協力する旨伝え、メールアドレスの送信など計画を助長したことが認められ、職務専念義務等に違反する。しかし、乙もAの計画に積極的姿勢を示さなかったことからすると、同行為が与えた影響もさしたるものでない。以上より、懲戒処分のうち最も重い降格処分(管理職1級から一般職5級)をしたことは懲戒権を濫用したものといえる。

 

・丙への対応

丙はAの計画に参与してことが認められるが、実際に新会社へ引き連れていくことができそうな部下の名前を挙げたのみであり、働きかけを行ったと認められる証拠はない。

上記契約を助長したことは職務専念義務違反に該当するが、同様の性質、態様に鑑み、重大な違反行為とは言えず、諭旨解雇は無効である。

【SPCの見解】

労働契約中である在職中については、信義則に基づいて競業避止義務を負うものと解されます。一方で、退職した後については、憲法22条1項の“労働者の職業選択の自由”との関係で難しい問題があります。

本件事案は、在職中の競業避止義務が争われた事案ですが、計画への関与は認められるものの、会社批判や虚偽を行った事実は認められず、実際に、引き抜きや顧客の奪取なども生じていません。

以上より、引抜き計画には関与しつつも、行った懲戒処分(懲戒解雇や降格処分など)は全て無効であると判断されました。

 

実際に懲戒処分をするには、具体的に企業秩序に支障があり、他の従業員へ悪影響を与えるなど実損害が発生している(または、発生する可能性が高い)ことが前提になります。

懲戒処分前に複数回の注意・指導で態度が改まらず、職場秩序に影響がでる段階で懲戒処分を行うなどの対応が重要になります。

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