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違法派遣による直接雇用義務(※改正派遣法の影響に注意)

      2016/02/23

パナソニックプラズマディスプレイ事件 【最高裁判 2009/12/18】
原告:請負会社社員  /  被告:発注会社

【請求内容】
偽装請負で働く労働者が、発注会社との間に黙示の労働契約があるとして雇用確認等を求めた(訴訟提起時の請求)

【争  点】
偽装請負の労働者と発注会社との間に黙示の労働契約は成立するか?(争点が多岐に亘るため主要争点のみ)

【判  決】
両者の間に黙示の労働契約が成立していたとは認められない。請負(実際は派遣元)会社との雇用契約も無効でない。

【概  要】
請負会社(A社)に雇用され、発注会社(B社)にて就労していた労働者Xは、実際はA社ではなくB社から指揮命令を受けていたことを理由に、その就労形態は請負ではなく派遣(違法な偽装請負)であり、B社と自己の間には「黙示の労働契約」があるとして直接雇用するようB社に求めた。二審では、労働者XとB社との間に黙示の労働契約の成立を認めた。

【確  認】
【偽装請負とは】
派遣先等が、派遣法又は労働基準法、安全衛生法、男女雇用機会均等法などの適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を結び、法定の労働者派遣契約に定めなければならない事項を定めずに、派遣労働者を受け入れ、使用すること。(本当は派遣なのに請負契約を装い、派遣先会社が負うべき義務・責任から逃れる行為)

※労働者派遣か請負かは、契約形式ではなく実態に即して判断され、雇用形態が請負であるにも関わらず、労働者と発注会社の間に指揮命令関係がある場合は労働者派遣(実際の契約が請負ならば偽装請負)と判断される。

 

【判決のポイント】

本判決では、例えA社とB社の契約が実質は派遣契約(偽装請負)であり違法だとしても、それだけで労働者XとA社の雇用契約が無効にはならず、XとB社との間にも黙示の労働契約は成立しないという理論が成り立っている。
つまり「偽装請負など違法な派遣をした会社は、当該労働者の雇用責任を引き受けるべきなのか?」という点について、最高裁は否定したということになる。
しかしこの判決が、平成24年10月1日に施行された「改正労働者派遣法」の「労働契約申込みみなし制度」(※これは平成27年10月1日より施行予定)により、無意味なものとなってしまうため注意してほしい。

【労働契約申込みみなし制度とは】
派遣先等が違法行為(※)を行った場合には、その違法行為の時点における派遣労働者の労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなして取り扱われる制度のこと。派遣労働者がそのみなし申込みに「承諾」した時点で労働契約が成立し、派遣先はこれを拒否することはできない。つまり平成27年10月1日以降は、本件の最高裁判決とは正反対に、違法派遣した派遣先は雇用責任を引き受けなければならなくなるのである。
(※)違法派遣とは
1)労働者派遣が禁止されている業務への派遣受入れ (4条3項違反)
2)無許可・無届の派遣元事業主からの派遣受入れ (24条の2違反)
3)派遣限度期間を超える派遣労働者の受入れ (40条の2第1項違反)
4)いわゆる偽装請負

【SPCの見解】

■本件最高裁判決は、発注会社(実質派遣先会社)と労働者との間に「黙示の労働契約」が認められるとした高裁判決を覆し「黙示の労働契約」なしと判断したことで注目を浴び、専門家の間でも最高裁の判決の方が妥当であるとされていた。しかし、今回の派遣法改正の「労働契約申込みみなし制度」は、「黙示の労働契約」どころか強制的に派遣先に直接雇用を義務付ける内容となっており、今後のトラブル増加は避けられないだろう。しかも、これが必ずしも派遣労働者の保護になるかといえば、例えば今回の事件のように一度は派遣先に直接雇用されるも、数ヶ月で退職させられることも考えられ、法のねらい通りの結果となるかはかなり怪しいというのが現時点での印象である。

労働新聞 2010/3/29/2770号より

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