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私生活上の非行を理由に退職金を不支給にできるか

      2016/02/23

X社事件 【東京地判 2012/03/30】
原告:労働者甲  /  被告:会社


【請求内容】
在職中、強制わいせつ致傷罪で有罪判決となったことを理由とした退職金不支給は不当として全額支払いを求めた。

【争  点】
私生活上の非行(本件では強制わいせつ致傷罪で有罪判決)を理由に退職金を不支給とすることが許されるか?

【判  決】
本件非行がそれまでの勤続の功労を抹消するものとは言い難く、(全額不支給ではなく)5割5分減額が妥当である。

【概  要】
会社に約22年間勤務した原告甲は、在職中に女子高生にわいせつ行為をした上、突き飛ばして転倒させ傷害を負わせたとして逮捕され、強制わいせつ致傷罪で有罪判決となった。甲が被告会社の社員であることが報道され、会社は報道機関から求められてコメントするなどの対応を余儀なくされた。甲はその後合意退職したが、当該非行が就業規則規定の懲戒処分に相当するとして退職手当を全額(約1300万円)不支給となった。甲はこれを不服として提訴した。

【確  認】
【退職金の法的性質】
退職金の支払いは法的に義務ではないが、就業規則等で支払う旨の定めがある場合や、定めはなくとも退職金支払の慣行があった場合には支払いは義務となる。また、退職金については就業規則の「相対的必要記載事項」であるため、退職金支払い制度や慣行がある場合は、必ず就業規則に「退職金が支払われる従業員の範囲・退職金の決定方法、計算方法・支払の方法・時期」を明記しておく必要がある。(※退職金の時効は5年)
また、労働基準法第23条により「退職者の賃金等労働者の権利に属する金品は7日以内に精算しなければならない」と定められているが「退職手当は通常の賃金の場合と異なり、予め就業規則等で定められた支払時期に支払えば足りる(昭26.12.27基収5483、63.3.1基発150)」とされており、退職金支払い時期にはある程度裁量がある。

 

【判決のポイント】

1)私生活上の非行について、懲戒処分することは可能か?
使用者の懲戒権は、就労に関する規律と関係のない労働者の私生活上の言動にまで及ぶものではないのが原則である。但し、以下のような場合は「企業秩序維持」のため、私生活上の言動にも使用者の懲戒権が及ぶ。
①事業活動に直接関連するもの(例:インターネット上で会社の批判をする等)
②企業の社会的評価の毀損をもたらすもの(例:タクシー運転手の休日の飲酒運転等)
(※大前提として、就業規則に懲戒の事由と手段が定められていなければならないので注意)

2)非違行為と懲戒処分の妥当性
使用者に懲戒権がある場合でも、それが無制限に行使できるものではなく、「行為の程度」と「処分の重さ」のバランスが取れているか(相当性)が問題となる。特に労働者にとって最も重い懲戒解雇処分を科す場合には、「非違行為の程度」「会社に与えた損害の程度」「示談成立の有無」等により、その相当性を個別に判断する必要がある。

3)退職金不支給の妥当性
懲戒解雇となった場合は退職金を支払わない旨の規定がある場合も多いが、常に全額不支給でも良いというわけではない。なぜなら、退職金には「賃金の後払いの性質」と「功労報償の性質」があると解されており、非違行為があったとはいえ、それにより今までの勤続の功労が全て抹消されるとはいえないためである。よって、それまでの功労を抹消してしまうほどの信義に反する行為があった場合のみ全額不支給が認められるにすぎない。

【SPCの見解】

■就業規則に「退職金不支給規定」があったとしても、退職金の全額不支給は難しいことが分かる事例である。他の類似の判例では退職金全額の3~6割程度の支給額を妥当としており、非違行為の内容等によりかなり差があるため、その減額率については個別具体的な判断が求められる。全額不支給とした後に裁判で敗訴してしまうと、遅延損害金が年6分の割合で発生するためこれも大きなリスクのひとつと言える。また、退職金を全額支払った後に在職中の非違行為が発覚し、退職金の返還を求めたい場合は裁判をするしかないため、退職金の支払いは退職後すぐではなく、3~6ヶ月程度の間をおいてから支給する旨、定めておくのが良いと思われる。

労働新聞 2012/9/24/2890号より

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