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■有期労働契約の雇止め

      2016/02/21

雇止めとは、期間の定めのある労働契約(以下、「有期労働契約」。)の期間満了に際し、会社側の意思により契約を更新しないことをいいます。したがって、期間満了にともなって、従業員の意思により契約を更新しない場合は雇止めとはいいませんし、あらかじめ臨時的に定められた期間に限定して労働契約を締結し、予定通り期間満了で終了する場合についても同様です。あくまでも前提として契約更新の可能性がありながら、会社側の意思で更新しないことをいいます。もちろん、解雇とも違います。
取り上げる最高裁判例等は、次のものです。
有期雇用契約における期間更新の拒否~東芝柳町工場事件(最高裁昭和49年7月22日判決)
有期雇用の雇止め~日立メディコ事件(最高裁昭和61年12月4日判決)
労働契約法第19条と「雇止め」法理~東芝ライテック事件(横浜地裁平成25年4月25日判決)

東芝柳町工場事件-「有期雇用契約における期間更新の拒否」

Y社は、電気機器等製造販売を目的とする会社で、従業員には正規従業員(本工)と臨時従業員(臨時工)の種別があり、臨時工には基幹作業に従事する基幹臨時工と付随作業に従事するその他の臨時工とに分かれる。
基幹臨時工は、景気変動に合わせて雇用量の調整をはかる必要から雇用されたもので、採用基準、給与体系、労働時間、適用される就業規則等において本工と異なる取扱いをされ、労働組合に加入できず、労働協約も適用されないが、従事する仕事の種類、内容は本工と差異はない。毎年相当数が採用されて総工員の30%を占め、2ヵ月の期間満了によって雇止めされた事例は見当たらない。1年以上雇用されたら試験を経て本工に登用されるが、数回不合格となっても相当数の者が引き続き雇用されている。契約期間は2ヵ月だが、Y社側に直ちに契約更新手続きをとっていたわけでもない。
Y社は、Xらは、5回から23回の契約更新を重ねたが、その都度直ちに契約更新手続きをとっていたわけではない。
Y社は、Xらに対し、勤務態度不良や業務減少を理由として契約更新をしなかった。Xらは、Y社に対し、従業員としての地位を求めて提訴。一審および原審は、実質上期間の定めのない契約と異ならない状態にあったとして、Xらの請求を認めた。Y社は上告したが、棄却され、雇止めは認められなかった。

<判決からのメッセージ>
1.「本件各労働契約においては、Y社としても景気変動等の原因による労働力の過剰状態を生じないかぎり契約を継続することを予定していたものであって、実質において、当事者双方とも、期間は一応2ヵ月と定められてはいるが、いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であったものを解するのが相当である」。
2.「本件各労働契約は、期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものといわなければならず、本件各雇止めの意思表示は右のような契約を終了させる趣旨のもとにされたのであるから、実質において解雇の意思表示にあたる」。
→本件当事者が、実質において、当事者双方とも、いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であったと解し、実際にも
労働契約が期間の満了ごとに当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたとし、その後の雇止めは実質的には解雇にほかならないので、解雇に関する法理を類推適用すべきである。
<メッセージに対する私的見解>
この判決によって次の事が明確となりました。
1)格別の意思表示がなければ当然更新されるべき契約は、期間の定めのない契約と実質的に異ならない。
2)期間の定めのない契約と実質的に異ならない契約における雇止めは、実質において解雇の意思表示に当たり、解雇権濫用法理が類推される。
3)期間の定めのない契約と実質的に異ならない契約においては、やむを得ないと認められる特段の事情が存しないかぎり、雇止めは信義則上許されない。
つまり、形式的には、有期契約をもって雇用されるという形をとっていても、実質的には、同一契約をそのまま更新するという形で、雇用関係は継続していて、実質においては、期間の定めなく雇用されたと同じ労働関係になっており、その関係を終了させる雇止めは、解雇(一方的な雇用関係の切断)に他ならない、という理解です。解雇となれば、「不当解雇」として不当解雇の日から解雇無効判決確定日までの賃金全額の支払いが必要となり、精神的苦痛に係る損害賠償請求の対象となり得る場合も出てくるわけです。
以下が雇止めと認められる為の留意点です。
1. 契約締結時の明示事項
1)契約社員に対して契約締結時にその契約の「更新の有無」を明示しなければならない。
2)契約社員に対して契約更新する場合があると明示した場合は、契約社員に対して契約を更新する場合またはしない場合の「判断基準」を明示しなければならない。
【判断基準の明示の例】
・契約期間満了時の業務量により判断する
・契約社員の勤務成績、態度により判断する
・契約社員の能力により判断する
・会社の経営状況により判断する
・従事している業務の進捗状況により判断する
2.雇止めの予告
契約社員を更新しない場合には、少なくとも契約期間が満了する日の「30日前までに雇止めの予告」をしなければならない。
※雇止めの予告が必要な有期労働契約とは、1年を超えて継続雇用している場合または3回以上労働契約が更新されている場合です。また契約を更新しないことがあらかじめ明示されている場合は対象になりません。
3.雇止め理由の明示
雇止めの予告後に、契約社員が「雇止め理由」について証明書を請求した場合は、遅滞なく交付しなければならない。雇止め後に契約社員から請求された場合も同様。
雇止めの理由は、「契約期間満了」ではなく、なぜ契約を更新しなかったのかを具体的に記載する必要がある。
さらに留意すべき点としては、
・有期契約労働者の業務の性格
・契約更新の回数勤続年数
・契約更新時の手続方法
・使用者等の言動
・他の同等の地位にある社員の契約更新状況
これらが、考慮すべき事項となります。

日立メディコ事件-「有期雇用の雇止め」

Xは、昭和45年12月1日から同月20日までの期間を定めてY社柏工場に雇用され、同月21日以降、2ヵ月の労働契約が5回更新された臨時員である。臨時員制度は、景気変動に伴う受注の調整を図る目的で設けられたものであり、臨時員の採用に当っては、学科試験とか技能試験とかは行われず、面接において健康状態等を尋ねるのみで採用決定するという簡易な方法をとっている。Y社が昭和45年8月から12月までの間に採用した柏工場の臨時員90名のうち、翌46年10月20日まで雇用関係が継続した者は、本工採用者を除いてXを含む14名である。例外はあるものの、一般的な臨時員には準備作業的要素の作業、単純な作業、精度がさほど重要視されていない作業に従事させる方針で、Xも比較的簡易な作業に従事していた。
Y社は、臨時員の契約更新に当っては、更新期間の約一週間前に本人の意思を確認し、当初作成の労働契約書の「4 雇用期間」欄に順次雇用期間を記入し、臨時員の印を押印させていたものであり、5回にわたる本件労働契約更新は、いずれも期間満了の都度新たな契約を締結する旨を合意することによってされてきた。
Y社は、不況による業務上の都合を理由に、昭和46年10月20日の期間満了をもって、Xとの契約を更新せず、雇止めとした。Xは提訴し、一審は、本件は実質的に期間の定めのない労働契約であるとしてXの請求を認めたが、原審は、期間の定めのある労働契約であるが解雇法理が類推適用されるとしたうえで、やむを得ない理由があるとしたて雇止めを認めた。Xは上告したが、棄却された。

<判決からのメッセージ>
1.「柏工場の臨時員は、季節的労務や特定物の製作のような臨時的作業のために雇用されるものではなく、その雇用関係はある程度の継続が期待されていたものであり、Xとの間でも5回にわたり契約が更新されているのであるから、このような労働者を雇止めにするにあたっては、解雇に関する法理が類推される。そして、解雇が無効とされるような事実関係の下に使用者が新契約を締結しなかったとするならば、期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係となる」。
→Xは非臨時的な作業のために雇用されていること、実際に数回の契約が更新されていることを理由に、雇止めについて解雇に関する法理が類推適用される。
また、雇止め制限の法理は、契約更新により雇用の継続に合理的な期待がある場合にも適用される。雇止め制限の法理を適用した結果、雇止めが無効と判断されれば、従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係が生じる。
2.「臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上、雇止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきである。したがって、独立採算制がとられているY社の柏工場において、事業上やむを得ない理由により人員削除をする必要があり、その余剰人員を他の事業部門へ配置転換する余裕もなく、臨時員全員の雇止めが必要であると判断される場合には、これに先立ち、期間の定めなく雇用されている従業員につき希望退職者募集の方法による人員削減を図らなかったとしても、それをもって不当・不合理であるということはできない」。
→臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものであるため、雇止めが経営上の理由による場合には、本工に対するよりも整理解雇の有効性の判断は、緩やかに行われることになる。また、解雇回避努力として、本工に対する希望退職を募集せずに、臨時員に対する雇止めをしたとしても、それは不当・不合理ではない。
<メッセージに対する私的見解>
この判決によって次の事が明確となりました。
1)雇用継続の合理的な期待が認められるような場合(業務が企業の経営活動にとって不可欠なものであり、その業務の継続が当然予測され、余程のことがない限り、その業務に従事することは継続するであろうと期待できる場合)には解雇法理を類推適用する。
2)期間の定めのある契約の雇止めと、期間の定めのない契約の解雇とでは、合理的な差異がある。
3)本工の希望退職募集に先立ち臨時員の雇止めが行われても、不合理とはいえない。
東芝柳町工場事件と日立メディコ事件から実務上の雇止め対策として、以下参考にして下さい。
1)正社員との仕事の違いを日頃から明確にしておく。
2)立場上、「正社員への登用」を期待させるような言動を控える。
3)契約期間中の観察を記録しておく。
4)更新1ヶ月前には、更新有無の面接を実施する。
5)面接では、契約始期からの振り返りの中で出来ていない点・要員数・経営状況等に触れ、更新するか否かの検討時間を設ける。
6)結果、雇止めに至る場合で、本人が退職証明書を要求した場合は発行義務があることを認識の上、1週間程度要することを伝える。
7)結果、更新する場合には、今後期間満了により契約関係が終了する可能性を認識させ、「課題」の遂行を確認する。

東芝ライテック事件-「労働契約法19条と「雇止め」法理」

Xは、平成4年10月、Y社に、契約期間を3ヵ月とする有期社員として入社し、以来、Y社のB事業所の産業機器製造課に配属されて、電気コイル製造に従事してきた。Y社は、平成12年10月1日、産業機器光源事業を、Z社に営業譲渡した。これに伴い、Xは、Z社との間で従前と同一内容の労働契約を締結し、従前同様、B事業所においてコイル製造作業に従事してきた。そして、Xは、Z社で勤務するようになった後も、3ヵ月の契約期間が満了するごとに、面談のうえ、従前と同一の条件で契約更新を続けてきた。
Z社の業績は、平成18年度までは順調だったが、19年度に入ると、売上業績が大幅に悪化し始め、翌20年度は、いわゆるリーマンショックの影響から、経常利益で44億9000万円という創業以来の大幅赤字を計上するに至った。これに対し、Z社は、種々の合理化施策を実施したが、状況は改善せず、21年度上半期(4月~9月)の実績で、31億8000万円の経常赤字を計上するまでに至った。
そこでZ社は、企業存続のため、より抜本的な収益改善のための施策を実施することが不可欠となり、平成22年1月には、大幅な人員削減やB事業所の閉鎖等を内容とする「事業構造改革」(以下、「本件事業構造改革」)を決定、実施することにし、Xを含むB事業所の従業員に対して、8回にわたって、本件事業構造改革の説明会を実施した。そして、B事業所の閉鎖が23年9月末日と正式に決定したことから、Xは、23年6月6日、上司であるAから、今回が最終契約となるので、それ以降の契約更新はない旨を告げられたうえで、「雇用期間は平成23年7月1日から同年9月30日までとする」、「今回をもって最終契約とする」と記載された労働契約書(以下、「本件労働契約」および「本件労働契約書」)を提示され、これに署名捺印して、契約を更新した。
そして、Z社は、平成23年9月末日をもって、B事業所を閉鎖し、同年10月1日以降、Xとの労働契約を更新しなかった(以下、「本件契約更新拒否」)。
XがY社の平成4年10月に入社してから、およそ19年、契約更新の回数は76回に及び、このうちZ社に入社した後の契約更新の回数は43回であった。なお、Y社は、本件訴え提起後である平成24年10月1日、Z社を吸収合併した。
これに対し、本件は、Xが①Y社に対し、本件契約更新拒否は、「解雇」に他ならないところ、本件解雇は権利の濫用として、違法・無効である旨を主張して、労働契約上の権利を有する地位いあることの確認と賃金支払い、②低賃金の不安定な雇用を継続し、「本件契約更新拒否」に及んだことは、Y社およびZ社の代表取締役であったCの共同不法行為に該当すると主張して、Y社らに対し、連帯して、慰謝料100万円を支払うべきことを、それぞれに求めた。
結果、Xの訴えのうち本判決確定の日の翌日以降の賃金の支払を求める部分が却下され、その余の請求いずれもが棄却された。

<判決からのメッセージ>
本件労働契約書の「今回をもって最終契約とする」との記載は、いわゆる雇止めの予告をしたものであると解するのが相当であり、Z社は、本件労働契約につき、契約期間満了日である平成23年9月末日をもって雇止めをしたものというべきである。Z社との間の雇用継続に対する期待利益には合理性があるというべきであり、本件雇止めに解雇権濫用法理が類推適用されると解するのが相当である。 ただし、「今回をもって最終契約とする」旨の文言が記載された本件労働契約書に署名、押印していることから、XのZ社との間の雇用継続に対する期待利益の合理性の程度は高くないというべきある。
これらの事情を総合するならば、本件雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することができないものであるということはできない。なお、Xは、B事業所に勤務した正社員には早期退職優遇措置が採られたのに対し、Xを含む非正規社員には何らの措置も予定されなかったことが不合理であると主張するが、労働契約上の期間の定めの有無をもって退職条件に差異を設けることが不合理であるとまでいうことはできず、Xの上記主張を採用することはできない。したがって、本件雇止めが解雇権の濫用に当たるということはできず、Xの主張は採用することができない。上記争点で説示したとおり、本件雇止めは解雇の濫用に当たるとはいえず、Z社のXに対する労働条件の設定等についても違法ということはできないから、本件雇止めがY社らの共同不法行為に当たるとのXの主張は認めることができない。
<メッセージに対する私的見解>
改正労働契約法19条は、①有期労働契約が、過去、反復して更新され、社会通念上、更新拒否が期間の定めのない契約を終了させる(解雇する)ことと同視できる場合、あるいは、②有期労働契約の期間満了時に、当該有期労働者において、契約更新されるものと期待することに合理的理由がある場合のいずれかに該当する場合には、使用者による有期労働契約の更新拒否が、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は、当該有期労働契約は更新されたものとみなす(労働者が、当該有期契約の更新を望んでいる場合に限る)ものとしています。
つまり、雇止めが、その雇止めによって有期労働者が被る生活危機に勝る事情、有期労働者に生活危機を甘受させるだけの事情・理由がなければ契約更新をしなければならない規定ということになります。
こうした「雇止め」への法的規制が労働契約法第19条によって試みられた時に、東芝ライテック事件は、労働者の雇止めの違法・無効の主張を退けた事案として、有期契約労働者を含む非正規労働者の地位の不安定さをあらためて浮き彫りにしました。

我が国の2012年(平成24年)の人口は、約1億2600万人です。そのうちの生産年齢人口(15歳以上64歳以下)は約7900万人です。当該人口に占める非正規労働者はおよそ1800万人(23%)です。しかも女性が約7割を占めています。さらに、非正規労働者の約75%が年収200万円未満です(総務省統計局「労働力調査」)。
非正規労働者の利用の拡大→労務コストの削減→多数の低賃金労働者の排出→不安定雇用の結果としての失業→貧困化による治安の悪化という負の現象が現実問題となってきました。
わたしのように経営者側に立つ者であっても、「優秀な非正規労働者を正社員に登用する制度」の構築は経営者の社会的使命として実施するべきものと考えます。そして、「正規労働者の業務内容の質の徹底追求」も当然のようにおこなっていくべきと痛感します。今後も労働契約法の動きには注目をしていきたいと思います。

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