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■整理解雇の有効性と退職勧奨の違法性

      2016/02/21

整理解雇といえば「4要件」といわれますが、その4要件とは何でしょうか?東洋酸素事件(東京高裁昭和54年10月29日判決)は、以下のように述べています。
「特定の事業部門の閉鎖にともない、その事業部門に勤務する従業員を解雇するについて、それが「やむを得ない事業の都合」によるものといい得るためには、第1に、この事業部門を閉鎖することが企業の合理的運営上やむを得ない必要性に基づくものと認められること、第2に、この事業部門に勤務する従業員を同一または遠隔でない他の事業場における他の事業部門の同一または類似職種に充当する余地がない場合、あるいはそのような配置転換を行ってもなお全企業的に見て剰員の発生が避けられない場合であって、解雇が特定事業部門の閉鎖を理由に使用者の恣意によってなされるものでないこと、第3に、具体的な解雇対象者の選定が客観的、合理的な基準に基づくものであること。
解雇につき労働協約または就業規則上いわゆる人事同意約款または協議約款が存在するにもかかわらず労働組合の同意を得ず、またはこれと協議を尽くさなかったとき、あるいは解雇がその手続上信義則に反し、解雇権の濫用にあたると認められるときなどにおいては、いずれも解雇の効力が否定されるべきである。」
つまり、1.人員削減の必要性があるか
2.解雇回避努力義務を尽くしたか
3.被解雇者選定の基準は相当か
4.必要な手続を踏んでいるか
という4要件が「全て満たされた時、整理解雇は有効」という考え方です。
この「4要件」が、昨今では、「4要素」化してきています。今回はそれを中心に見ていきます。
取り上げる判例は、次の2つです。
①整理解雇の有効性~ナショナル・ウエストミンスター銀行(第三次仮処分)事件
(東京地裁平成12年1月21日決定)
②退職勧奨の違法性~下関商業高校事件
(最高裁判決昭和55年7月10日)

①ナショナル・ウエストミンスター銀行(第三次仮処分)事件-「整理解雇の有効性」
Y銀行(以下「Y」という。)は、英国法に準拠して設立された銀行である。Xは、昭和56年8月に、Y東京支店の従業員として雇用され、平成9年3月当時は、アシスタント・マネージャーとして、貿易金融業務に従事していた(年収約1,052万円)。Yは、激変する国際金融情勢に対応し生き残りを図るため、不採算事業を縮小・廃止するリストラクチャリングを進めることとし、平成9年3月、貿易金融事業からの撤退を決め、同年6月末をもって当該部門を閉鎖することとした。同部門の閉鎖により、Xのポジションが消滅するが、Yは、Xを配転させ得るポジションは存在しないとして、就業規則所定の退職金約800万円に対して特別退職金等約2,330万円の支給を条件に、雇用契約の合意解約を申し入れた。
Xは、上記申入れを拒否。そこでYはXの所属する労働組合と団体交渉(Yは組合との間で3ヵ月の間に7回の団体交渉を実施)を行い、Xに経理部の一般事務職のポジション(年収約650万円)を提案したが、当時、同ポジションには年収450万円の契約社員が十分に満足のいく仕事をしていたところ、退職予定のない同人を
解雇してまでXにポジションを与えるべく提案したものであった。Xは、これも受け入れなかったため、Yは、平成9年9月1日付けで同月末日をもって普通解雇する旨の意思表示をした。Yは、解雇通告に際し約335万円を上乗せし、同年10月には退職金名目で1,870万円をXの銀行口座に振り込んでいる。さらに、YはXの再就職が決まるまでの間の就職斡旋会社のための費用を無期限で支払うことを約束した。
これに対してXは、本件解雇は解雇権を濫用したものであり無効であるとして、地位保全および賃金の仮払いを求めて仮処分の申立てを行った。
本件は、第一次仮処分(平成10年度の賃金の仮払いを求めたもの)、第二次仮処分(得平成11年度の賃金の仮払いを求めたもの)に次いで、平成12年度の賃金の仮払い等を求めて提起されたものである。なお、第一次仮処分、第二次仮処分の申立においては、いずれもXの申立が認められ、Yの解雇は無効であるとの決定がなされている。
結論として、Yの行ったXに対する本件解雇は解雇権の濫用とはいえないとして、Xの申立は却下された。
<判決からのメッセージ>
1)「余剰人員の削減対象として雇用契約の終了を余儀なくされる労働者にとっては、再就職までの当面の生活の維持に重大な支障をきたすことは必定であり、特に景気が低迷している昨今の経済状況、また、従来日本企業の特徴とされた終身雇用制が崩れつつあるとはいえ、雇用の流動性を前提とした社会基盤が整備されているとは言い難い今日の社会状況に照らせば、再就職にも相当の困難が伴うことが明らかであるから、余剰人員を他の分野で活用することが企業経営上合理的であると考えられる限り極力雇用の維持を図るべきで、これを他の分野で有効に活用することができないなど、雇用契約を解消することについて合理的な理由があると認められる場合であっても、当該労働者の当面の生活維持及び再就職の便宜のために、相応の配慮を行うとともに、雇用契約を解消せざるを得なくなった事情について当該労働者の納得を得るために説明を行うなど、誠意をもった対応をすることが求められる」
→4要件のひとつである「解雇回避努力」ではなく、「解雇後の不利益軽減努力」に重点を置いた判断である。退職金の上乗せを提示したり、再就職が決まるまでの金銭的援助を約束したりしている点から、Yは相応の配慮をしたと判断されている。
2)「いわゆる整理解雇の4要件は、整理解雇の範疇に属すると考えれる解雇について解雇権の濫用に当るかどうかを判断する際の考慮要素を類型化したものであって、各々の要件が存在しなければ法律効果が発生しないという意味ではなく、解雇権濫用の判断は、本来事案ごとの個別具体的な事情を総合考慮して行うほかないものである。」
→整理解雇の4要件について、そのどれか1つでも欠ければ無効となるという意味での要件ではなく、個別具体的な事情を総合配慮する際の判断の「要素」にすぎないとしている。
<メッセージに対する私的見解>
リストラをする時に、
1)役員の給与カットをしても雇用に手をつけなければいけない状態か?
2)退職勧奨をしたか?
3)会社に居てもらわないと困る人が辞めないような手は打ったか?
4)キレイ事ではなく本音で辞めて行ってくれる人と話し合いをしたか?
当該「4基準」は、会社に指摘する私的な考え方です。

②下関商業高校事件-「退職勧奨の違法性」
Xら2名は、市立下関商業高校の教員であった。同校の教諭には、定年制度がなかったため、従来より相当の年齢を基準に退職勧奨を行ってきた。同校校長及び下関市教育委員会(以下「市教委」という。)は、X1及びX2に対し、それぞれ昭和40年度末(X1は当時57歳)及び昭和41年度末(X2は当時59歳)から毎年退職勧奨を実施したが、退職勧奨に応じなかった。
昭和44年度末においても、同45年2月26日に第1回目の勧奨をし、以後勧奨に応じないため、X1に対しては3月12日から5月27日までの間に11回、X2に対しては3月12日から7月14日までの間に13回にわたって、市教委に出頭を命じたうえ、教育次長ほか6名の担当者のうち1名から4名で、1回につき20分から2時間15分に及ぶ退職勧奨を繰り返した。
また、Xらが要求した組合役員の立会は拒否され、組合が要求していた宿直廃止等について、市教委は、Xらが退職勧奨に応じない限り要求に応じないとの態度をとった。これに対し、Xらが退職勧奨は違法(民法709条不法行為に該当)であるとして、下関市、同市教育長および教育次長を相手として、損害賠償の請求を行った。1審は、下関市に対し、X1に4万円、X2に5万円の支払を命じ2審もこれを支持した。下関市は上告したが、本審では、上告は棄却され、損害賠償の支払いを命じた

<判決からのメッセージ>
1)「退職勧奨は、任命権者がその人事権に基き、雇用関係ある者に対し、自発的な退職意思の形成を慫慂(しょうよう)するためになす説得等の行為であって、法律に根拠をもつ行政行為ではなく、単なる事実行為である。従って被勧奨者は何らの拘束なしに自由にその意思を決定しうることはいうまでもない。」
→退職勧奨は、法律に根拠を持つ行為ではない。被退職勧奨者は、勧奨に応じるか否かについて、何らかの拘束なしに自由にその意思を決定できる。
2)「Xらに対する退職勧奨の回数、その態様等、すべての事情を総合すると、Xらが本件退職勧奨によりその精神的自由を侵害され、また受忍の限度を越えて名誉感情を傷つけられ、さらには家庭生活を乱されるなど相当の精神的苦痛を受けたことは容易に推認しうる。」
→行き過ぎた退職勧奨は、不法行為(民法第709条)となり、損害賠償責任を負う。またその損害額は、勧奨回数、態様、勧奨時の発言、勧奨に関連してなされた行為等を総合的に勘案する。
<メッセージに対する私的見解>
退職勧奨には、懲戒解雇を意識した諭旨退職と、普通解雇を意識した勧奨退職があります。どちらにも共通するのが、「退職届」をとるということです。
解雇を通告する前に、まずは「退職勧奨」を合言葉にしてもよいぐらい大切な措置と考えます。トラブル回避の意味からも退職強要にならない退職勧奨の伝え方を身につけておくべきと考えます。ポイントは3つあります。
1)解雇ではないこと。あくまでも勧奨による任意同意退職。退職届必要。
2)退職勧奨はあくまでも「退職のおすすめ」であること。
3)退職するかどうかは本人の自由意思。退職強要は損害賠償義務を負う。

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