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■年次有給休暇と時季変更権の有効性

      2016/02/21

年次有給休暇(以下「年休」という。)の法的性質について、白石営林署事件(最高裁昭和48年3月2日判決)を受けた行政通達(労働基準法第39条の解釈)をまずご紹介します。
(1)年休の権利は、法定要件を充たした場合法律上当然に労働者に生ずる権利であって、労働者の請求をまってはじめて生ずるものではない。つまり、年休の成立要件として、労働者による「休暇の請求」や、これに対する使用者の「承認」というような観念を容れる余地はない。
(2)年休を労働者がどのように利用するかは労働者の自由である。しかし、労働者がその所属の事業場においてその業務の正常な運営の阻害を目的として一斉に休暇を提出して職場を放棄する場合は、年休に名をかりた同盟罷業にほかならないから、それは年休権の行使ではない。

取り上げる判例は、次の4つです。
1.勤務割の変更をしなかった場合の時季変更権の有効性~弘前電報電話局事件
(最高裁判決昭和62年7月10日)
2.年休の取得後に行使された時季変更権の有効性~此花電報電話局事件
(最高裁判決昭和57年3月18日)
3.研修期間中に年休を取得した場合の時季変更権の有効性~NTT事件
(最高裁判決平成12年3月31日)
4.長期連続休暇に対する時季変更権の有効性~時事通信社事件
(最高裁判決平成4年6月23日)

1.弘前電報電話局事件-「勤務割の変更をしなかった場合の時季変更権の有効性」
Xは、Y公社の電報電話局機械科に勤務し、6輪番交代服務の勤務体制に組み入れられていた。Xは、昭和53年9月4日、労使間協議で最低配置人員が2名と定められている日曜日の同月17日に年休の時季指定をした。機械課長は、応ずればXが同日の予定されている成田空港反対闘争に参加し、違法行為に及び恐れがあると考え、参加を阻止するため、Xの代替勤務を申し出ていた職員を説得してその申出を撤回させたうえ、同日にXが出勤しなければ必要な最低配置人員を欠くことになるとして時季変更権を行使した。しかし、Xは同日に休暇を取り成田空港反対闘争に参加した。Y公社はこれを欠勤として、Xを戒告処分にし、当日の賃金をカットした。これに対して、Xは時季変更権行使の効力を争い、①カットされた未払い賃金及びそれと同額の附加金の支払い②戒告処分の無効確認③損害賠償(慰謝料及び弁護士費用)を請求した。第一審は、①及び②について請求を認容し、③については、弁護士費用のみ損害賠償を認容した。第二審は棄却。第三審は、一部破棄、一部差戻し(時季変更権の行使は無効と判断)した。

<判決からのメッセージ>
1)「労働者の年休の時季指定に対応する使用者の義務の内容は、労働者がその権利としての休暇を享受することを妨げてはならないという不作為を基本とするものにほかならないのであるが、年休権は労基法が労働者に特に認めた権利であり、その実効を確保するために附加金及び刑事罰の制度が設けられていること(同法114条、119条1号)、及び休暇の時季の選択権が第1次的に労働者に与えられていることにかんがみると、同法の趣旨は、使用者に対しできるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすることを要請しているものとみることができる」
→年休に対応する使用者の義務は、労働者の年休権の享受を妨げてはならないという不作為を基本とする。これに加えて、労基法は、「労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮(代替勤務者の配置)をすることを要請している」。
2)「労基法39条4項ただし書の「事業の正常な運営を妨げる場合」か否かの判断において、「代替勤務者配置の難易は、判断の一要素となるというべきであるが、特に勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には、重要な判断要素であることは明らかである。したがって、そのような事業場において、使用者としての通常の配慮をすれば、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしないことにより代替勤務者が配置されないときは、必要配置人員を欠くものとして事業の正常な運営を妨げる場合に当るということはできないと解するのが相当である。」
→勤務割で就労する労働者のケースでは、最低配置人員が設定されていると、年休を取得すれば常に「事業の正常な運営を妨げる」ものとして、時季変更権の行使が認められる恐れがあるので、使用者に代替勤務者確保のための配慮が求められる。
<メッセージに対する私的見解>
成田空港反対現地集会に参加して違法行為に及ぶ恐れがあると考え、参加を阻止するために代替勤務者に翻意させるなど配慮とは逆の行動をしていることは、「年休を労働者がどのように利用するかは労働者の自由である。」に反するものであったと思います。会社側としては、年休の利用目的を確認したくなる気持は痛いほどわかりますが、「がまん=知らない方がいいこともある」を教えてくれている判例だと思います。

2.此花電報電話局事件-「年休の取得後に行使された時季変更権の有効性」
X1及びX2はY公社に勤務する職員である。X1は、昭和44年8月18日の年休について、当日出社せず午前8時40分頃電話で宿直職員を通じて、理由を述べず同日の年休を請求し、午前9時から予定されていた勤務に就かなかった。X2は、昭和44年8月20日の年休について、当日出社せず午前7時30分頃電話で宿直職員を通じて、理由を述べず同日午前中の年休を請求し、午前10時から予定されていた勤務に就かなかった。
上司である課長は事務に支障が生ずるおそれがあると判断したが、休暇を必要とする事情の如何によっては年休を認める可能性もあると考え、X1には直ちに電報を打ち、X2には午後出社時に直接理由を尋ねたが、X1、X2は理由について回答を拒否した。そこで、課長は年休請求を不承認とし、当日を欠勤扱いとして賃金をカットした。Y公社の就業規則および労使協定では、年休の請求は「原則として前々日の勤務終了時まで」とされていた。X1及びX2は、年休不承認を違法として、賃金カット相当の賃金支払を求めて提訴した。第一審は請求を認め、Y公社に賃金支払いを命じたが、第二審は時季変更権の行使は有効であるとした。X1とX2は第三審に上告したが、棄却された。

<判決からのメッセージ>
「使用者の時季変更権の行使が、労働者の指定した休暇期間が開始し又は経過した後にされた場合であっても、労働者の休暇の請求自体がその指定した休暇期間の始期にきわめて接近してされたため使用者において時季変更権を行使するか否かを事前に判断する時間的余裕がなかったようなときには、それが事前にされなかったことのゆえに直ちに時季変更権の行使が不適法となるものではなく、客観的に右時季変更権を行使しうる事由が存し、かつ、その行使が遅滞なくされたものである場合には、適法な時季変更権の行使があったものとしてその効力を認めるのが相当である」
→時季変更権の事後的な行使は、時季指定が休暇の始期にきわめて近接した時期に行われ、時季変更権の行使の判断の時間的余裕がなかった場合には、その行使が遅滞なく行われれば適法である。

<メッセージに対する私的見解>
弘前電報電話局事件でも認識した通り、年休については自由利用の原則があり、使用者が休暇目的を考慮して時季変更権を行使するかどうかを決めることはできませんが、今回の判例のように休暇目的の如何によっては、時季変更権の行使を差し控えようとして、休暇目的を問うことは問題ないと考えます。また、年休の時季指定について、「時間的余裕のある時期」とはいつなのか?今判例では、「前々日まで」が認められました。自社の規定に反映させてもよいのではと思います。

3.NTT事件-「研修期間中に年休を取得した場合の時季変更権の有効性」
XはY会社のネットワークセンターにおいて電話交換機の保守を担当する交換課に勤務し電話交換機保守の業務に従事していた。Y会社は、事業遂行に必要なデジタル交換機の保守技術者の養成と能力向上を図るため、平成元年11月1日から同月29日まで、Y会社の設置する中央電気通信学園において訓練を実施した。
Xは、訓練期間中の同月21日について、事前に組合休暇願を提出した。しかし、訓練中は組合休暇を認めることができないとの回答を受けたので、Xは年休の請求をしたところ、Y会社は時季変更権を行使した。Xは、同月21日、本件訓練に出席せず、当日予定されていた「共通線信号処理」の講義(4時限)を受講しなかった。この講義は、翌22日にも行われ(2時限)、Xはこの講義は受講した。Xの本件訓練中の各科目の成績は、おおむね普通以上であった。
Y会社は、Xに対し同月21日の本件訓練の欠席は無断欠勤であるとして、譴責処分をし、就業規則に基づき職能賃金の定期昇給額の4分の2を減額し、また同日分の賃金をカットした。そこで、Xは、本件の時季変更権の行使は無効であるとして、譴責処分の無効確認、減額分の賃金の支払いを求めて訴えを提起した。
第一審は、時季変更権の行使は有効だが、譴責処分は権利濫用で無効であるとして、Xの請求を認容した。第二審は、時季変更権の行使は違法であるとして、結論として、控訴を棄却した。第三審では、第二審判決が破棄され、差戻しされ、Xの請求は棄却された。

<判決からのメッセージ>
「本件のような期間、目的の訓練においては、特段の事情のないかぎり、訓練参加者が訓練を一部でも欠席することは、予定された知識、技能の修得に不足を生じさせ、訓練の目的を十全に達成することができない結果を招くものというべきである。したがって、このような訓練の期間中に年休が請求されたときは、使用者は、請求された年休の期間における具体的な訓練の内容が、これを欠席しても予定された知識、技能の修得に不足を生じさせないものであると認められないかぎり、事業の正常な運営を妨げるものとして時季変更権を行使することができると解される」
→本件における教育訓練(研修)の受講は、X自らがそこで修得した知識を職場に持ち帰らなければならないという意味で非代替的な業務である。非代替的業務に従事する場合には、本人が年休を取得すれば、事業の正常な運営を妨げる可能性が高く、使用者の時季変更権の行使が有効とされやすい。

<メッセージに対する私的見解>
年休を取得して欠席しても、予定された知識、技能の修得に不足を生じさせない場合は、時季変更権の行使は難しいと考えます。会社がコストをかけた研修だからと意気込んでも、本人があらかじめ修得予定の知識や技能を修得しているような場合には、強要はできないことになります。対策としては、就業規則に研修への参加を研修者同士のコミュニケーションを図る旨明示して徹底することをお勧めします。

4.時事通信社事件-「長期連続休暇に対する時季変更権の有効性」
Y会社の記者であるXは、科学技術庁の科学技術記者クラブに1人だけ配置されていた。Xは、昭和55年当時において、前年度の繰越分を含めて40日間の年休日数を有していたところ、同年6月30日、休暇および欠勤届を提出し(8月20日から9月20日まで)、年休の時季指定をした(所定の休日等を除いた年休日数は24日)。これに対し、Xの所属する社会部の部長は、Xが1ヵ月も不在になれば取材報道に支障をきたすおそれがあり、代替記者を配置する人員の余裕も無いとの理由をあげて、Xに対し、2週間ずつ2回に分けて休暇を取ってほしいと回答したうえで、後半の2週間の時季指定については業務の正常な運営を妨げるものとして、時季変更権を行使した。しかし、Xは、8月22日から9月20日までの間、欠勤した。
そこで、Y会社は、時季変更権を行使した9月6日から9月20日までの間の勤務を要する10日間について業務命令に反して就業しなかったことを理由にXを譴責処分に処し、賞与についても減額支給した。Xは本件時季変更権の行使は違法であるとして、譴責処分の無効確認と賞与の減額分の支給を求めて訴えを提起した。第一審は、時季変更権の行使を有効としたが、第二審は、Xの請求をほぼ認容した。第三審は、第二審を破棄、差戻しし、時季変更権の行使は再び有効とされた。

<判決からのメッセージ>
「労働者が長期かつ連続の年休を取得しようとする場合においては、それが長期のものであればあるほど、使用者において代替勤務者を確保することの困難さが増大するなど事業の正常な運営に支障を来す蓋然性が高くなり、使用者の業務計画、他の労働者の休暇予定等との事前の調整を図る必要が生ずるのが通常である。しかも、使用者にとっては、労働者が時季変更をした時点において、その長期休暇期間中の当該労働者の所属する事業場において予想される業務量の程度、代替勤務者確保の可能性の有無、同じ時季に休暇を指定する他の労働者の人数等の事業活動の正常な運営の確保にかかわる諸般の事情について、これを正確に予測することは困難であり、当該労働者の休暇の取得がもたらす事業運営への支障の有無、程度につき、蓋然性に基づく判断をせざるを得ないことを考えると、労働者が、右の調整を経ることなく、その有する年休の日数の範囲内で始期と終期を特定して長期かつ連続の年休の時季指定をした場合には、これに対する使用者の時季変更権の行使については、右休暇が事業運営にどのような支障をもたらすか、右休暇の時期、期間につきどの程度の修正、変更を行うかに関し、使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ない」
→Xの担当していた業務は専門的知識を要するもので代替要員の確保が困難であったこと、Xが時期や期間についてY会社との間で十分な「事前の調整」を行わずに、長期連続休暇の時季指定をしていること、Y会社は部長から理由をあげて2回に分けて休暇を取得するよう回答し、実際に後半部分のみ時季変更権を行使するなど、相当な配慮をしていることを考慮して、最終的には、時季変更権の行使を有効と判断した。

<メッセージに対する私的見解>
1日単位の年休が通常である日本の年休制度からすれば、労働者が敗訴しましたが、画期的な事例であったと思います。ただ、まだまだ日本の場合は、長期連続休暇の取得は永年勤続における慰労的付与が限界かもしれません。ただ、平成22年4月の労基法改正で労使協定の締結により年休の時間単位付与が可能となりました。長期連続休暇では逆ですが、日本的でいいかなと思います。5日以内であれば取得できるものです。

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