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賃金等請求権の消滅時効の延長に対する対応について

      2021/12/20

平成29年に民法が改正され、それに伴い労働基準法115条の改正が行われました。改正の内容は、令和2年4月1日以降に支払い期日が到来する賃金請求権の消滅時効期間が2年から5年に延長され、当分の間は経過措置として3年となっていますが、施行後5年後に再度検討される予定です。以前にもお伝えしましたが、賃金請求権の消滅時効の延長により企業が受けるリスクについては、近年裁判例も多くあり軽視できないことがありますので、企業としての対応について、改めてお伝えしたいと思います。

 

賃金請求権の消滅時効が延長される対象となるのは次にあげる権利が対象となります。

 

〇金品の返還(労基法23条 賃金の返還請求に限る)〇賃金の支払(労基法24条)〇非常時払(労基法25条)〇休業手当(労基法26条)〇出来高払制の保障給(労基法27条)〇時間外・休日・深夜労働に関する割増賃金(労基法37条)〇年次有給休暇に対する賃金(労基法39条9項)〇未成年者の賃金(労基法59条)

 

また、同時に、付加金(裁判所が企業へのペナルティとして、使用者の労基法違反の程度・態様、労働者の不利益の内容・性質等の様々な事情を考慮して、未払い金と同額まで支払を命じることができるもの)の請求期間も延長になっています。

 

本改正により、企業が直接受ける影響が多いのは、時間外労働に対して割増賃金等を払っていない場合に、労働者から訴訟を起こされ企業が敗訴した場合の未払い金の支払です。3年の期間分でも内容によってはかなりの影響があると思いますが、5年に確定した場合はさらに大きなリスクが増大することが予想されます。サービス残業の実態が常態化している企業では、早急に是正する必要があると言えます。

 

その他にも、根拠が説明できないあいまいな固定残業代を支払っている場合や、管理監督者の扱いについて適正な労務管理をしていない場合は、同様に見直しが必要です。管理監督者でありながら実態は名ばかり管理職であり労働者と同じ労働形態である場合、裁判で労基法上の労働者と評価された場合は、残業代をいっさい払っていなければ、支払い義務が発生します。管理監督者と労働者に対する労務形態について精査しておく必要があります。

 

ここ数年、労働者の権利に対する意識が高くなり、未払い残業代に対する訴訟件数も増加しています。厚生労働者が発表した未払い残業代に関する訴訟件数は、1企業100万円以上支払った企業を対象とすると、令和元年度では1611企業であり、1企業当たりの平均の支払い額は611万円となっています。さらに1000万円以上を支払った企業は161企業となっています。

 

未払残業請求が発生する場合とは、労働基準監督署による調査の是正による場合や退職者から訴えられた場合があります。残業代の未払いは債務不履行にあたるため、未払い金の他に遅延損害金も発生します。遅延損害金は在籍中の場合は年6%ですが、退職後に請求された場合、「賃金の支払い確保等に関する法律」の第6条により退職後は年14.6%になると定められています。退職後の支払い額の方が増額してしまうことも留意しておく必要があります。

 

企業の目的は利益を上げることが最優先でありますが、リスク管理ということが後回しになりがちです。しかし、リスクが起きた場合というのは、すぐ解決できるような規模ではないことがたいてい多いです。そのためにも、普段から適正な労務管理をしていくことは重要なことであります。法をよく理解していなかったなどの理由は認められませんので、是正すべきことがあれば、早急に対応していく必要があるでしょう。

 

 

 

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