労務相談、管理者研修、未払い残業代請求対策なら労務管理センター

同一労働同一賃金に係る最高裁判決

      2020/10/19

10月13日に1.メトロコマース事件、2.大阪医科薬科大学事件という2つの大きな最高裁判決が出されました。

 

非正規従業員に退職金や賞与が支払われなかったことの是非が争われた2件の上告審判決で、最高裁第3小法廷はいずれも不支給を「不合理とまでは評価できない」との判断をし、一定額を支払うべきだとしていた二審の高裁判決を一転させて原告側の逆転敗訴が確定しました。

 

ではこの判決において、なぜ「不合理ではない」という判断を会社が勝ち得たのかを重視してまとめます。なお、退職金・賞与以外の論点もありますがここではこれらに焦点を絞って記載します。

 

○メトロコマース事件

契約社員だった66歳~73歳の女性複数人が約十年にわたり駅の売店で働いたのに退職金の支給がないことは不合理な労働条件を禁じた労働契約法20条(今年4月からはパートタイム・有期雇用労働法に移行)に反すると訴えた事案。

 

判断のポイント

・売店での仕事は正社員と概ね共通する

・休暇や欠勤などでいない販売員の補充という役目が正社員にはあった

・複数の売店を統括するエリアマネージャーは正社員のみであった

・配置について勤務場所の変更は契約社員にもあったが業務内容が変わることはなかった

・正社員への登用制度があり、実際に相当数の登用があった

 

これらより仕事や責任に一定の違いがあると判断したうえ、登用試験で正社員になる道もあったと示しました。さらに同社の退職金には「正社員としての職務を遂行しうる人材の確保」を図る目的があるとして労働条件に差を付けることは「不合理といえない」と判断しています。

 

○大阪医科薬科大学事件

アルバイトの秘書として2年余りフルタイムで教授らの日程管理や来客対応に携わった50代女性に対して正社員と同じ仕事なのにも関わらず賞与の支給がないことは不合理な労働条件の禁止に反すると同様に訴えた事案。

 

判断のポイント

・職務についてアルバイトは「相当に軽易」であった

・正社員は学術誌の編集や病理解剖遺族対応、劇物管理など独自の業務があった

・正社員は人事異動により教室事務から病院業務担当になることもあり得るが、アルバイトは原則として配置転換されることは無かった

・アルバイト職員から契約社員、正社員への登用制度が設けられていた

 

これらよりメトロコマース事件と同様に、仕事や責任に一定の違いがあり、正社員の登用制度があることも指摘したうえで、賞与の支給についても「正社員としての職務を遂行しうる人材の確保や定着を図る」目的があることを言及し「不合理とはいえない」と判断しました。

 

総じて、まず退職金と賞与について、最高裁はその支給について「正社員としての職務を遂行しうる人材の確保や定着を図る」目的があることを認定しています。

 

正社員と非正規社員にはどちらにも一定の業務の違いがあることを具体的に示し、その人材の活用範囲についても転勤の可能性や業務内容の変更について精査しています。正社員の登用制度があることを指摘し、それぞれの非正規社員についてその身分を変更することが可能であったことも会社にとっては有利な判決になる要素となりました。

 

○会社がするべき対応

判決により、今後訴訟が立て続けに起こるような懸念は払拭されたように感じます。会社の経営状況も心配されるコロナ禍においてはまずは一安心といったところです。しかしながら、最高裁判断においてもあくまで今回の事実関係のもとで検討した事例判断であり、退職金や賞与が支給されないことが「不合理とされることもある」ことを強調しています。よって会社としても引き続き不合理な待遇差が存在しないように会社制度の再度確認が必要です。司法は1業務内容、2責任、3配置変更範囲、4その他の事情という4つの要素から判定を行います。具体的には以下の点を整理されると効果的です。

 

・正規、非正規において業務の内容の差があるのかを整理。現状が同一の業務に見えても、突発的な案件が発生した場合の業務の差や将来的に従事する可能性がある業務の違いも洗い出す。

・業務内容の変更や配置転換の可能性をその範囲も含めて明確に整理する。

・退職金、賞与を始めとして各種手当の目的を整理する。手当に差異がある場合にはその差に根拠をつける。

・正社員の登用制度等、会社が講じている正社員への転換推進措置とその実績の確認。

 

ご心配な点はお気軽にご相談くださいませ。不要な労働争議が発生しないよう今後も引き続きご対応ください。

 -