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海外出張時の労災保険

   

梅雨というのに、暑い日が続いていますが、体調を崩されないようにご自愛ください。

本日は、海外出張の際の労災等についてお伝えしたいと思います。

 

労災保険法の適用については、法律の一般原則として属地主義がとられているため、国内の事業からの「出張」の場合には労災保険の対象となりますが、海外の事業に「派遣」され、その事業に使用される場合には労災保険の対象となりません。
なお、海外「出張」に当たるか海外「派遣」に当たるのかは、海外における勤務期間の長短によって判断されるのではなく、その労働者の海外における労働関係によって判断されます。したがって、例え海外での勤務が長期にわたる場合でも、国内の事業場の指揮命令に従って業務に従事している場合には海外出張となりますし、海外の事業場に所属して、その事業場の指揮命令に従って業務を行う場合などは、海外派遣とみなされることになります。

海外派遣の場合には特別加入をしていない限り労災の適用はできませんので、従業員が出張としていく場合のみ、国内の労災を使用することができます。

出張中の業務中のけがはもちろん、移動中であったり、滞在中について争われた事案が何件かありますのでご紹介します。

1.出張中の従業員が海外のホテルで強盗に襲われなくなったケースについて、労災の適用が争われた裁判例(鳴門労基署長〈松浦商店〉事件 徳島地判平14.1.25判決)

中国の大連に出張中の従業員が、所定の宿泊先ホテルの客室で何者かに首を切られて殺害され、財布が奪われた件が業務上災害に当たるかどうかが争点となった事案。遺族は、労災保険の遺族補償年金給付を求めたが、労基署は業務上の事由による死亡とは認められたいとし、不支給処分にしていた。裁判所は、特段の私的行為や恣意的行為がなく、財布を強奪されていることや本件の前にも日本人旅行者が殺害された上に金品を強盗されるという事件があったこと、また、本件後も同じ市内で日本人が被害者となる事件が複数発生していることなどから、日本人が強盗殺人に遭遇する危険性はあったというべきだとして、業務起因性を認めた。

2.移動中についても、基本的には、出張先への移動期間も通勤災害ではなく業務災害となります。ただし、「泥酔で交通事故に遭った」 や 「私的な用事のために全く関係ない経路を通って出張地まで行く途中の事故」 などであれば、労災は適用されません。また、飛行機事故やタクシー事故などは、第三者行為災害となり、相手方からの補償を第一に使用し、そのほかに請求できるものがあるときや補償の内容が違うときには申請を行えます。たとえば治療費の補償についてはしてもらうことができたが、休業補償を受けることができない場合等。また、相手方が外国人のためうまくやり取りができない場合、日本のように自賠責がない国や相手方が逃げてしまった等の時には、監督署に対象がどうか確認をしてみる必要があるでしょう。

3.社員旅行について、これについては、慰安的要素や、業務起因性(欠席する場合は欠勤控除している等)を判断し、決定されますが「労災とならない」と考えていたほうがよいでしょう。

 

基本的には、通常の業務災害と同じように、業務起因性や業務遂行性のあるものに対し、労災の適用となります。

企業規模を問わず、海外への出張が増えている現在のため、たくさんのリスクがあると考えられます。労災ではなくても、テロ対策や過重労働等、前もって規定や申請書などの様式を作成し、企業として対応が必要になります。

従業員の出張に関しては、事故なく帰ってきてもらうことが第一ですが、もし何かあった時には、労災の申請ができる対象者かもしれないと頭の片隅に入れていただければ幸いです。

 

 

 

 

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