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退職勧奨に応じなかった者に対する出向命令は違法なのか?

      2016/02/23

リコー出向事件 【東京地判 2013/11/12】
原告:労働者Xら  /  被告:Y社

【請求内容】
退職勧奨を拒否した労働者Xらに対して子会社への出向を命じたのは、権利濫用で無効であるとして提訴した。

【争  点】
退職勧奨に応じなかった者を子会社へ出向させることは、権利濫用で無効なのか?

【判  決】
(本件は)退職勧奨に応じなかった者が退職することを期待して行われたもので合理性を欠き、無効であるとした。

【概  要】
Y社は、各部門6%の割合で余剰人員を選定し、希望退職への応募を勧奨したが、そのうち1割の者は応じなかったため、Y社は勧奨に応じなかった者に対して子会社への出向を命じた。出向に際して、人事上の職位・賃金額の変更はなく、就業場所も自宅からの通勤圏内あった。Xらは出向命令権の濫用であるとして、出向先において勤務する義務がないことの確認、信義則違反及び不法行為に伴う損害賠償、退職強要行為または精神的圧迫の差止めを求めた。

【確  認】
【民法 第六百二十五条(使用者の権利の譲渡の制限等)】
使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。
※ 但し、「個別的な同意」がなくても、「包括的な同意」で良いと解されている。

【労働契約法 第十四条(出向)】
使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。

 

【判決のポイント】

■Y社に出向命令権はあるのか?
①Y社の就業規則には、出向を命ずる場合がある旨の定めがあったこと。
②労働契約において、職種や職務内容に関し特段の限定がなかったこと。
③入社に際して「就業規則を遵守すること、異動・転勤及び関係会社間異動の命令に従うこと」等の誓約書を差し入れていること。
⇒ 個別の同意がないとしても、それに代わる「明確かつ合理的な根拠」があるとして、出向命令権ありとした。

■出向命令権の濫用があったといえるのか? (4つの判断基準にて総合判断)
【業務上の必要性】⇒ ○
当時の経営環境において人件費抑制を図ることは一定の合理性があり、出向命令に業務上の必要性が認められる。
【人選の合理性】⇒ ×
余剰人員の割合を6%とする客観的・合理的根拠が明らかでなく、基準の合理性、過程の透明性、人選作業の慎重さや緻密さに欠け、余剰人員の人選は、退職勧奨の対象者を選ぶために行われたものとみられる。
【労働者の不利益】⇒ ×
出向先での業務、環境は、キャリアや年齢に配慮した異動とは言い難く、身体的にも精神的にも負担が大きい。
【動機・目的】⇒ ×
退職勧奨を断ったXらが翻意し、退職することを期待して出向を命じたものであるとみられる。

【SPCの見解】

■本件では、会社の経営状態が悪く、人件費削減の必要性が認められているにもかかわらず、出向が無効とされた点に注目したい。見方を変えればY社は、本来ならば退職して欲しい労働者達に対して、まず希望退職を募り、応じなかった者も整理解雇するのではなく、賃金等の労働条件を維持したまま出向させる等の、精一杯の配慮をしているともいえるのだが、本件は整理解雇のような厳しい合理性を使用者に要求しているように感じられる。ここまで厳しくされてしまうと、企業にとって、更なる成長のための「戦略的な人事」は、とてもリスクが高い行為となってしまう。出向を命じる場合は(例え就業規則に定めがあっても)その必要性や人選について、細心の注意が必要である。

労働新聞 2014/5/26/2970号より

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