労務相談、管理者研修、未払い残業代請求対策なら労務管理センター

「応じなければ解雇」という退職勧奨は違法なのか?

      2016/02/23

エム・シー・アンド・ピー事件 【京都地判 2014/02/27】
原告:労働者X  /  被告:会社Y

【請求内容】
退職強要により被った精神的苦痛について慰謝料200万円と、休職期間満了退職は無効として地位確認等を請求。

【争  点】
「退職勧奨に合意しない場合は解雇である」と解雇の可能性を示唆して行った退職勧奨は違法か?

【判  決】
解雇の可能性を示唆する退職勧奨は、労働者の退職の自己決定権を侵害するもので、その方法も執拗であり違法。

【概  要】
労働者Xはうつ病により休職していたが、その後復職した。しかしY社は、Xが仕事をこなしきれていないことから、約10日の間に5回にわたる退職勧奨をしたが、Xはこれに応じなかった。その翌日Xは主治医の診察を受けたところ、うつ病により休職加療を要すると診断されて再休職となり、その後就業規則所定の3ヶ月の休職期間満了により退職扱いとなった。Xは退職強要の精神的苦痛についての慰謝料と退職扱いの無効による地位確認等を求めた。

【確  認】
【退職勧奨とは】
退職勧奨とは、使用者が労働者に対して退職を奨めるものである。解雇のような強制力はなく、勧奨に応じるか否かは労働者の自由である。よって、労働者の自由な意思形成が保障されている限り、どのような内容・態様の勧奨を行うかは、使用者の裁量に委ねられているが、以下のような方法で行われる退職勧奨は違法となる。
① 労働者が退職勧奨に応じない姿勢を明示しているにもかかわらず、繰り返し勧奨を行う場合。
② 不当な心理的圧力を加えたり、名誉感情をことさら害するような言辞を用いる場合。
<参考判例> ① 下関商業高校事件(最一小判昭55.7.10) ② 全日本空輸事件(大阪地裁平11.10.18)

 

【判決のポイント】

■本件退職勧奨はなぜ違法と判断されたのか?
1)Xが退職勧奨には応じないとしているにもかかわらず、その後も執拗に長時間にわたり、計5回の退職勧奨が行われたことは許容限度を逸脱していること。
2)「通常の業務に支障をきたしているという解雇事由に該当するため、退職勧奨に応じなければ解雇する」と、解雇を示唆して行われた退職勧奨は、労働者の退職に関する自己決定権を侵害する違法なものである。

■なぜ、休職期間満了による退職が無効になったのか?
本判決では、「(既にうつ病で休職している労働者に対して)退職勧奨を執拗に行ったことは、『強い心理的負荷となる出来事(※下記参照)』があったものといえ、これによりXのうつ病は自然経過を超えて悪化したのであるから、精神障害の悪化について業務起因性が認められる」ため、(労働基準法第19条の解雇制限に抵触し)退職は無効である、としている。
(※)【心理的負荷による精神障害の認定基準】~発病後の悪化について~
「悪化の前に『強い心理的負荷となる業務による出来事』が認められても、直ちにそれが当該悪化の原因であるとまでは判断することはできず、原則としてその悪化について業務起因性は認められない(但し「生死に関わる事故や極度の長時間労働があった場合」は例外とされている)」この基準によれば、本件悪化は、業務災害になるレベルではなく、労働基準法第19条の解雇制限の対象としてよいのか疑問が残る。(しかも本件は解雇ではなく休職期間満了による退職である)

【SPCの見解】

■退職勧奨をする際に「応じなければ解雇する」とほのめかす事はよくあるが、実際に解雇事由となる事実が存在しないにもかかわらず、退職勧奨に応じさせる目的で脅しのために言った場合は、もちろん違法である。問題は「一応就業規則の解雇事由に該当するような事実があった場合」に「本当なら解雇だけど、温情として退職勧奨としてもよい」という意味合いの場合は判断に迷うところである。しかし、その事実が「本当に解雇することが妥当なのか?」という点は微妙なケースが多く、退職勧奨が「労働者の自由な意思形成が保障されているもの」であることも考慮すると、退職勧奨を行う際に解雇をほのめかすような発言をすることはリスクが高い行為であるといえる。

労働新聞 2014/11/17 /2993号より

 - , , ,

CELL四位一体マトリック
労働判例