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退職申出後、機密情報を指摘に保存したとクビ

   

伊藤忠商事ほか事件【東京地判 令和4年12月16日】

【事案の概要】

労働者(X)は、平成27年7月に総合職として会社(Y)に入社し、従事していたが、令和2年2月13日に同年3月末日付けで自主退職する旨の意思表示をした。

その後、Xは退職し、転職する直前の3月19日に、会社システムに保存されていたデータファイル等をクラウドストレージサービスであるGoogle DriveのXのアカウント領域内にアップロードした。

Y社は、本件アップロード行為が機密保持違反等に該当するとして、3月26日にXを懲戒解雇すると決定し、それを伝えた。

Xは、本件懲戒解雇は解雇権の濫用であり違法かつ無効で、予定されていた退職日(3月31日)に自主退職したものと主張して、退職後の按分賞与や退職金、遅延損害金等の支払いを求めて訴えを提起した。

【判決のポイント】

(1)不正競争防止法違反に当たるか

アップロードされた情報の大部分は一般情報であり、その中に少量の有用性及び非公知性がある対象情報が含まれていた。しかし、その対象情報が秘密であり、一般情報と合理的に区分されているということはできないから、秘密管理性を認めることはできない(法違反でない)。

 

(2)懲戒解雇に客観的合理的な理由があるか

Xはアップロードを引き継ぎの為と主張するが、データの大部分は引継ぎには必要のない情報と推認され、転職先においても価値のある情報とまでは言えない。しかし、アップロード行為自体は、XがY社以外の第三者のために利用する目的であったと推認でき、そのような行為自体もY社就業規則において禁止される「職務上知り得た会社及び取引関係先の機密情報を不正に目的外に利用する行為」等に該当する。

 

(3)社会通念上の相当性

退職が決まった従業員の非違行為に対しては退職金の不支給・減額が想定される懲戒解雇以外の処分では抑止力にならない。そのため、事業者の利益等を守る上では、金銭的な実害が事業者に出ていなくとも、退職が決まっている従業員の非違行為(今回のような情報の持ち出し)に対しては、比較的広く懲戒解雇をもって臨むことも許容される。

 

以上より、Y社に実害が出ておらず、Xに懲戒処分歴がないことを考慮しても、本件懲戒解雇は社会通念上相当であり、権利濫用には当たらない。

【SPCの見解】

本判決は、会社に具体的な損害は出ていないが、Xは自主退職することが決まっており、本件アップロード行為は利用目的を含めて悪質性が高く、懲戒解雇以外の処分が実効性に欠けるといった事情を考慮されたものかと思います。

 

機密情報の持ち出しについては、第三者への漏えい目的で持ち出した場合は悪質性が高いとする理由で懲戒解雇が有効とされるケースが多いです(日本リーバ事件 東京地裁 平成14年12月20日判決)。一方で、第三者への漏えい目的でなく、持ち出しが禁止されていた営業日誌を自宅で単に保管し、懲戒解雇されたケースは、その懲戒解雇は無効と判断した判例もあります(日産センチュリー証券事件 東京地裁 平成19年3月9日判決)。

 

会社としては、就業規則に機密情報の持ち出しを禁止する旨の記載をしっかりと明記した上で、懲戒解雇を含めた処分をする上では、①故意による行為か、②背信的な目的か、③どの程度の機密情報か、④実害が生じたか、を慎重に調査し、処分を検討する必要があります。

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