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出張旅費100回も不正受給、懲戒解雇は有効?

   

地位確認等請求事件【札幌高裁 令和3年11月17日】

【事案の概要】

Y社(被控訴人会社)との間で無期労働契約を締結していた従業員X(控訴人)が、平成27年6月~翌年12月までに100回にわたり出張旅費を偽り、52万円およびクオカード2万円分を不正受給したため、YはXを懲戒解雇した。

Xは、本件懲戒解雇は客観的合理的理由、社会通念上の相当性を欠き無効であると主張し、雇用契約上の地位確認等を求めた事案の控訴審である。

なお、一審(札幌地裁 令和2年1月23日)は、懲戒解雇を有効とし、Xの請求を棄却した。

【判決のポイント】

Xは、実際には社用車で出張先に赴きながら、公共交通機関を利用したと偽って利用料相当額の支給を受けた他、クオカードを上乗せした宿泊費等を請求し、その清算を受けた。こうしたXの行為は、就業規則の懲戒解雇に該当すると認められる。

しかし、Yは旅費の不正受給をした営業インストラクター10名(服務規律違反者)に対し、停職や減給の懲戒処分を行った。

Xと営業インストラクター10名のうち最も重い処分を受けた者を比較すると、

不正請求の期間はXが1年6ヶ月間・服務規律違反者が3年6ヶ月間であり、不正請求の回数はXが100回・服務規律違反者が247回、不正受給金額はXが54万円・服務規律違反者が27万円である。不正受給金額こそXが多いが、不正請求期間と不正回数は少ない。

また、不正受給が繰り返し行われておりY社の事務処理も杜撰でること、Xが反省して始末書を提出していること、利得額の全額を返済していること等を考慮すると、Xの懲戒解雇は他の者との均衡を失するものと言わざるを得ない。本件懲戒解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なもとを言えず、無効である。

 

この控訴審判決に対して、上告および上告受理申立てがされたが、棄却ないし不受理とされた(最一小決 令和4年6月23日)。

【SPCの見解】

労働契約法15条(懲戒)では、「使用者が労働者を懲戒する場合は、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利濫用で無効とする。」とされています。

このことを表したのが、下記の7要素になります。

  • 罪刑法定主義:懲戒とされる行為・処分を就業規則に規定しなければならない。
  • 不遡及の原則:行為時に処分対象でなかった行為を、事後に定めた規定で処分はできない。
  • 一事不再理の原則:同一の違反に対して、重ねて懲戒処分はできない。
  • 平等取扱の原則:同様の規定違反行為をした場合、処分は同一種類・程度であるべき。
  • 適正手続きの保障:弁明の機会を与えること。
  • 相当性の原則:処分内容が違反行為の種類・程度等に照らして相当なものであること。
  • 個人責任の原則:個人の行為に対して、連帯責任を負わせることはできない。

 

控訴審では、④平等取扱の原則と⑥相当性の原則が否定され、解雇無効と判断されました。会社としては、就業規則の懲戒処分の内容をしっかりと整備し、公平・平等に取り扱うことが原則になります。今回のように同時に懲戒処分を受けた場合だけでなく、過去に似たような違反行為があった時にどのような処分をしたかも確認した上で、処分内容を決定することも重要となります。

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