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労働安全衛生法の新たな化学物質規制(令和5年4月1日から順次施行)

   

国内で輸入、製造、使用されている化学物質は数万種類にのぼり、化学物質を原因とする労働災害(がん等の遅発性疾病を除く。)は、 年間450件程度で推移しています。また、がん等の遅発性疾病も後を絶ちません。 そのため、今般の改正は、化学物質による労働災害を防止することを目的としており、多くの項目が令和5年4月より令和6年4月に順次施行されますので、安衛法57条に規定される表示、通知の義務対象となる化学物質と同法28条の2に規定される調査(リスクアセスメント)の対象物質について整理します。

1.ラベル表示・SDS等による通知の義務対象物質の追加

安衛令に基づくラベル表示、安全データシート(SDS)等の通知とリスクアセスメント実施義務の対象となる物質に、国により危険性・有害性が確認されたすべての物質が以下のとおり順次追加されています。

令和3年度・・・234物質

令和4年度・・・約700物質

令和5年度・・・約850物質

かなり多くの物質が追加されていることが分かります。

リスクアセスメントとは、事業場にある危険性や有害性の特定、リスクの見積り、優先度の設定、リスク低減措置の決定の一連の手順をいい、事業者は、その結果に基づいて適切な労働災害防止対策を講じる必要があります。まずは自社で使用している化学物質がラベル表示、SDS通知、リスクアセスメントの対象物質となったかを洗う必要がありそうです。

 

リスクアセスメントの義務が課される物質は、ラベル表示及びSDS交付義務が課された物質と同一です。そのため、塗料やシンナーなど、提供された化学製品のSDSの「適用法令」に「労働安全衛生法 第57条の適用あり」、「労働安全衛生法 表示(または通知)対象物」などの記載があれば、リスクアセスメントの実施義務対象物質が成分として含まれていることになります。以下のサイトで対象物質かの確認ができます。

 

<職場のあんぜんサイト 表示・通知対象物質の一覧・検索>

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/gmsds640.html

 

化学物質は多くのものに含まれています。対象物質が改正により追加されているのであれば、例えば事務所のトイレに置かれているような一般家庭用手洗い洗剤に化学物質が含まれているのであれば表示義務やリスクアセスメント義務があるということでしょうか。これには、安衛則34条の2の7や安衛法57条のただし書きにて、「主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く」旨の記載があるため、トイレに置かれているといった程度であれば除かれると考えます。ただし、ホームセンターで購入できるような一般消費者向けの商品であっても業務用洗剤等、清掃作業に使っている場合も考えられ、それが対象物質であるのであればやはり義務が生じます。

 

リスクアセスメントは以下のような流れによります。

①化学物質による危険性・有害性を特定し、②その特定された危険性・有害性に基づくリスクを見積もり、③見積もったリスクの結果に優先順位をつけてリスク低減措置の内容を検討する。

具体的な方法は以下のサイトを参考にしてください。

<厚生労働省HP 化学物質対策に関するQ&A(リスクアセスメント関係)>

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11389.html

<独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所HP ケミサポ>

https://cheminfo.johas.go.jp/

 

2.リスクアセスメント対象物に関する事業者の義務

①労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される程度について、以下の方法等により最小限度にすることが求められています。(R5年4月1日施行)

・代替物等の使用

・発散源を密閉する設備

・局所排気装置又は全体換気装置の設置及び稼働

・作業の方法の改善

・有効な呼吸用保護具の使用

②リスクアセスメント対象物のうち、「濃度基準値設定物質」 については「濃度基準値」以下とすることが求められます。(R6年4月1日施行)

 

3.その他

リスクアセスメント対象物を製造、取扱い、譲渡、提供する事業場では、化学物質管理者の選任(令和6年4月1日施行)が、保護具を使用する事業場では保護具着用管理責任者の選任(令和6年4月1日施行)が必要です。また、衛生委員会の付議事項の追加(事項により令和5年4月1日、令和6年4月1日施行)や一定の場合の健康診断の実施義務(令和6年4月1日施行)が施行されます。

 

安衛法の改正は項目が多く、非常に理解しがたいのですが、これらが今般の法改正に伴い化学物質にアプローチする上で基本的で重要な部分と考えます。監督署もこれらの指導に動き始めているようですので、必要な場合は指導を受けながら、順次対応していきましょう。

<安衛法法改正に関する広島労働局リーフレット>

https://jsite.mhlw.go.jp/hiroshima-roudoukyoku/content/contents/001392153.pdf

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