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外国人労働者への年金対応

   

近年問題となっている日本企業の人出不足問題。“人手不足倒産”という言葉も出てしまうほど、深刻な問題となっています。生産年齢人口(15歳~64歳)が減りつつある中、外国人労働者に目を向ける企業も増えてきています。

日本の企業に雇用され働く外国人に対しても原則、一定の労働時間以上働く場合には社会保険制度に加入をします。

ところが日本の年金制度において、老齢基礎年金を受け取るためには、受給に必要な資格期間(保険料を納付した期間と免除を受けた期間の合算期間)を満たさなければならず、短期の来日であると、この資格期間を満たすことができずに、保険料は掛け捨てになってしまいます。そこで、保険料が完全な掛け捨てとなってしまうことを防ぐために設けられているのが「脱退一時金」制度です。

この脱退一時金制度は、日本国籍を有しない外国人が、国民年金または厚生年金保険の被保険者資格を喪失し、日本を出国した場合、日本に住所を有しなくなった日から2年以内に、日本年金機構(年金事務所)に対して請求することで、これまで掛けてきた保険料の一部が脱退一時金として返還されるものです。

≪脱退一時金の計算式≫

被保険者であった期間の平均標準報酬額×厚生年金保険料率×2分の1×係数(被保険者期間に応じて6~36)

※保険料率は、最終月が1月~8月の場合は前々年の10月、9月~12月の場合は前年の10月時点のものを使用します。

保険料納付済期間
6カ月以上12カ月未満
12カ月以上18カ月未満 12
18カ月以上24カ月未満 18
24カ月以上30カ月未満 24
30カ月以上36カ月未満 30
36カ月以上 36

 

被保険者期間に応じて、本人が支払った分の保険料の6か月分から36か月分が戻ってくるということになるため、返還額はある程度まとまった額となります。

従来は、この老齢基礎年金を受け取るための資格期間が原則として25年以上必要であったため、日本に短期で来日する外国人にとって、25年という期間は高い壁でありましたが、平成29年8月1日からは、資格期間の要件が10年に短縮されたため、10年以上の資格期間があれば老齢年金を受け取ることができるようになりました。これにより、受給権の発生がしやすくなるため、退職帰国時に脱退一時金の請求をするのかしないのか、判断のポイントが多岐に分かれることとなりました。

判断ポイントとしては下記が挙げられます。

  • 脱退一時金を請求する
  • すでに10年以上日本におり年金受給権が生じるため、脱退一時金の請求はしない
  • あと数年間、日本にいれば受給権が発生するので、もう少し日本での勤務を継続する
  • もう少しで受給権が発生するので、将来日本に戻ってくる可能性を考えると、脱退一時金の請求はしないでおく
  • (脱退一時金の請求を行った期間は資格期間の対象から除外されるため)

また、社会保障協定締結国の外国人の場合は、短期間の加入であっても社会保障協定国の年金制度と通算をして10年以上になれば、将来日本から年金を受給できることになります。社会保障協定とはそれぞれの国の社会保障の制度に加入することによって生じる保険料の2重負担の防止、保険料の掛け捨てとならないように社会保障協定に加入している国の年金制度に加入しているとみなして、年金を受給できるようにするための制度です。

※各国の受給要件は日本年金機構HPを参照ください。

 

外国人労働者にとっては退職して帰国する際に脱退一時金を受給するのかしないのか、しない場合には65歳になったら日本年金機構に年金請求を行わなければなりませんので、企業側としても将来必要となる手続きについての説明を行う等の必要性が高まってくるのではないかと思われます。

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