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労災保険海外派遣者特別加入制度

   

昨今怖いテロのニュースが多くあり、お客様から、こんな質問を受けました。もし海外に出張中にテロにあったら、それは労災になるのか?

今では日本の多くの企業が海外に進出しており、そこで働く方、取引先や営業先が海外にある、原材料の調達先が海外である、または、海外の研修生や技術者を日本の会社に受け入れるために、視察に伺うなど、仕事のために海外に行く場合がございます。そこで今回は、海外での労災についてお伝えしたいと思います。

まず、労災保険とは、従業員の方が、業務起因性や業務遂行性のある病気や怪我をした場合や、通勤中に怪我や病気にかかってしまった場合に、治療費や休業補償などを受けることができる国が運営している保険制度です。労災保険は、本来、労働者の業務中または通勤中による災害に対して保険給付を行う制度ですが、労働者以外の方のうち、その業務の実情・災害の発生状況などから見て労働者に準じて保護することが適当であると認められる一定の者に対して、特別に任意加入を認めているのが、労災特別加入制度です。 しかし、特別加入者の行う全ての業務について労災が認められるわけではありませんので注意が必要です。

また、基本的に労災は日本国内にある事業場に適用され、そこで就労する労働者が給付の対象となる制度であるため、海外の事業場で就労する方は対象となりません。しかし、外国の制度や適用範囲や給付内容が必ずしも十分でない場合もあることから、海外派遣者について労災保険の給付を受ける制度として、特別加入というものがございます。また、特別加入をしていなくても受けられるケースとして、海外出張者としての扱いがございます。

海外派遣者労災特別加入の対象者の範囲

1.日本国内の事業主から、海外で行われる事業に労働者として派遣される人

2.日本国内の事業主から、海外にある中小規模の事業(下記の規模)に事業主等(労働者ではない立場)として派遣される人

金融業・保険業・不動産業・小売業:50人以下
卸売業・サービス業       :100人以下
上記以外の業種         :300人以下

3.独立行政法人国際協力機構など開発途上地域に対する技術協力の実施の事業(有期事業を除く)を行う団体から派遣されて、開発途上地域で行われている事業に従事する人

海外派遣と海外出張の区別

「海外出張」の場合は、海外出張者に関して何ら特別の手続きを要することなく、所属する国内の事業場の労災保険により給付を受けられます。
「海外派遣」の場合は、海外派遣者に関して特別加入の手続きを行っていなければ、労災保険による給付を受けられません。

「海外出張者」とは単に労働の提供の場が海外にあるにすぎず、国内の事業場に所属し、その事業場の使用者の指揮に従って勤務する労働者です。
「海外派遣者」とは、海外の事業場に所属して、その事業場の使用者の敷に従って勤務する労働者またはその事業場の使用者(事業主およびその他労働者以外の方)です。
「海外出張者」と「海外派遣者」のどちらかに当たるかは、勤務の実態によって総合的に判断されることになります。
一般的に、商談・技術仕様などの打ち合わせ・市場調査・会議・視察等は海外出張とされます。
海外関連会社(現地法人・合弁会社・提携先企業)へ出向する場合・海外支店・営業所などへの転勤・海外で行う据付工事・建築工事(有期事業)に従事する場合は海外派遣とされます。
個々のケースによって判断が変わる場合もありますが、基本的には現地の会社にて働くような場合は海外派遣とされるため、特別加入がない場合には労災の給付を受けることはできません。

また、出張者の扱いは 出張中は、その用務の成否や遂行方法などについて包括的に事業主が責任を負っているため、特別の事情がない限り、出張過程の全般について事業主の支配下にあるといってよく、業務遂行性があると認められます。出張中の個々の行為については、積極的な私用・私的行為・恣意行為等にわたるものを除き、それ以外は一般に出張に当然又は通常伴う行為とみて、業務遂行性が認められることになります。
しかし、冒頭でお伝えしたテロのような場合は、労災を認められない可能性が高いです。理由としては、テロについて業務遂行性や業務起因性のあるものではないからと判断されてしまうためです。しかし、テロが頻発しているような危険な国へ従業員を視察等させるために、向かわせる場合には会社として労基法上の安全配慮義務違反として認められるケース等ケースバイケースとなるため一概には言えませんが、従業員を海外へ派遣する際については、それが出張なのか、派遣なのかの判断をし、必要があれば労災の特別加入および、民間の保険と合わせた労務管理をされることをご検討いただけたらと思います。

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