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業務委託の労働者性について

      2016/03/23

最近の就労形態の多様化により、派遣、業務請負、業務委託などの様々な労働の形で働く人が増加しつつあります。それは、働く側の「時間に拘束されずに自由に働きたい」「専門的な仕事に専念したい」という希望もありますが、企業側においても、人件費削減のために、正社員の雇用ではなくこのような就労形態を望む傾向にあるようです。
今回は業務委託についてのお話しをさせていただきたいと思います。
そもそも業務委託とは会社に雇用されるのではなく企業と対等の立場で労務の依頼を受ける働き方です。これは民法で定める委任の契約により業務遂行をしてもらうというものです。
企業としても社会保険料等の負担がないため、人件費削減のために取り入れる企業も増えています。雇用契約ではありませんので、労働法の規制を受けません。
しかし、業務委託という名目であっても、実態が雇用契約であり労働者性が認められれば、労働法が適用されてしまうこともあり、委託労働者は労働法の保護を受けることもありうるということです。実際、過去にも業務委託の労働者性について争われたいくつかの裁判例がありますので注意が必要です。

では、業務委託の場合の労働者性の判断はどのような基準で判断されるのでしょうか。

●労働者性の判断基準

1・業務遂行上の指揮監督
業務の内容、遂行方法について、使用者の指揮命令を受けていることは指揮監督関係の重大な要素となります。ただし、その程度が業務の性質上、通常注文者が行う程度の場合であれば指揮監督を受けているとはいえません。

2・諾否の自由
仕事の依頼、指示等に諾否の自由があるか
諾否の自由を有していれば、対等な当事者間の関係となり、指揮監督関係は薄れますが、拒否する自由を有しない場合は、指揮監督関係を推認させる重要な要素となります。

3・通常業務以外の業務の従事
使用者の命令により通常予定されている業務以外の業務に従事させられているときは、指揮監督を受けているとの判断を補強する重要な要素となります。

4・時間的・場所的拘束
勤務時間、勤務場所が指定され管理されているときは指揮監督を受けている要素となります。ただし、指定場所が業務の性質上、安全を確保する必要上から管理される理由のある場合は指揮監督を受けているとはいえません。

5・報酬の額
他の正社員に比べて著しく高額の場合には、一般的には、その報酬は、労務提供に対する賃金ではなく、事業者に対する代金の支払と認められ、その結果、労働者性を弱める要素となります。また、時間給や日給などの計算単価で支払われていれば労働者性が強くなります。

6・機械・器具等の負担関係
本人が所有する機械、器具が安価な場合には問題はないが、著しく高価な場合には事業者としての性格が強く、労働者性を弱める要素となります。

7・その他
上記のほか、過去の裁判例においては、
・採用、委託等の際の選考過程が正規従業員の採用の場合とほとんど同じであること・ 報酬について給与所得としての源泉徴収を行っていること・ 労働保険の適用対象としていること・ 服務規律を適用していること・ 退職金制度、福利厚生を適用していること等、使用者がその者を自社の労働者と認識していると推認される場合、労働者性を肯定する判断の要素となります。

●労災責任と安全配慮義務違反 使用者責任

労働者性が認められれば、労災補償責任も問われることもあり、労働者性が認められない場合であっても、社員と委託労働者との間に「特別の社会的接触関係」があったと認められれば、安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任が問われることになりますので注意が必要です。

以上、業務委託の労働者性の判断基準についてお話しましたが、気をつけなければいけないのは「業務委託契約」だから「業務請負契約」だからといって形式的な名称にこだわってはいけないということです。あくまでも現実の実態で判断されるのです。特に正社員と委託労働者が同じフロアで業務をしている場合は、人間関係も構築され、気がついたらほとんど正社員と同じ扱いをしてしまっているといったことも多々あることと思います。契約が業務委託契約であっても、実態が労働者と変わらなければ、社会保険料を逃れるための偽装契約とみなされかねませんので、契約に沿った労働形態を守ることが重要ではないかと思います。

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