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育休3カ月取得で翌年度の昇給見送る措置は妥当か

      2016/02/23

医療法人稲門会事件 【大阪高判 2014/07/18】
原告:男性看護師  /  被告:病院


【請求内容】
育休を3カ月以上取ると翌年度の職能給を昇給させない就業規則は無効として、慰謝料を請求。

【争  点】
育休取得後の不昇給規定や不昇給措置が不利益取扱いに当たり違法・無効となるか?

【判  決】
就業規則は育休取得の権利を抑制し、育児休業法に反し無効として、約24万円の支払いを命じた。

【概  要】
原告は、平成22年9月4日から12月3日まで育休を取得した。そのため、平成22年度の評価はB以上であったが、平成23年4月1日付けの定期昇給においては、不昇給規定に基づき、職能給は昇給されなかった。そこで、原告は、不昇給は、育児介護休業法10条に定める不利益取扱いに該当し公序良俗(民法90条)に反する違法行為であると主張して昇給した場合の給与と実際のそれとの差額に相当する損害の賠償を求め訴訟を提起した。一審は違法性を否定した。

【確  認】
育児介護休業法についての指針(平成21年厚生労働省告示509号)においては、不利益取扱いの例示として、昇給上の不利益は挙げられていないが、昇進・昇格について、休業期間を超える一定期間昇進・昇格の選考対象としない人事評価制度とすることは不利益取扱いに当たるとされ、また男女雇用機会均等法いついての指針(平成18年厚生労働省告示614号)ではあるが、人事考課において不就労期間や労働能率の低下を考課の対象とする場合、同じ期間休業した疾病等と比較して、妊娠・出産等による休業や労働能率の低下について不利に取り扱うことは不利益取扱いに当たるとされている。本件判旨もこうした指針を参考として本件不昇給規定や本件不昇給について、育休等を取得したことを理由とする不利益取扱いに当たるものとして違法無効と判断したものと思われる。

 

【判決のポイント】

■これまでの判例とは異なる判断
これまでの判例では、問題となった不利益措置が、一般的に権利行使を抑制する趣旨であったか、またその不利益の程度(当該権利を保障した実効性を失わせる程度の不利益か否か)に着目して、違法・無効の判断を行っていた。しかし、本件判旨では、不利益措置が、不就労の限度を超えて不利益を及ぼすものか否かや他の事情による欠勤等の場合と比べ不利益に取り扱うものか否かに着目して、違法・無効の判断を行っている。
■損害について
この判決で注目されるのは、不昇給による財産的損害を定期昇給をした場合の賃金額との差額相当として認めたことである。査定の結果を待たずに具体的な定期昇給請求権は発生しないが、不昇給規定がなければ昇給していたことは病院側も争ってはいないため差額分相当の財産的損害を認めている。
■判決の背景
労働力人口が減少し労働力不足が深刻化する中で、女性が子供を産み育てる環境整備は国策として必須になってきている。育児休業法、男女雇用機会均等法の趣旨を踏まえた人事労務管理の確立が求められてきている。

※妊娠・出産等を理由とする不利益取り扱いに関する解釈通達(平成27年1月23日雇児発0123第1)
男女雇用機会均等法第9条第3項や育児・介護休業法第10条等では、妊娠・出産、育児休業等を「理由として」解雇等の不利益取扱いを行うことを禁止している。

【SPCの見解】

■本判決後、妊娠中の軽易業務への転換を契機とする降格が不利益取扱い(男女雇用機会均等法第9条第3項)に当たり違法・無効となるかについての判断基準を示した判例(広島中央保健生協事件=最高裁判定平成26年10月23日)が出された。つまり、降格することなく軽易業務に転換させることに業務上の必要性から支障があって、労働者の自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、違反には当たらないというものである。当該判断からしても、本人の意向に反した降職・降格には、今後は慎重な対応が必要となることを示唆している。今後もいわゆるイクメンの原告が問題提起する事件が増えることになるだろう。

労働新聞 2015/03/09 /3008号より

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