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侮辱罪の厳罰化に思うこと

   

当社の社訓は、週明けの朝礼冒頭に、全員で唱和をしています。気付けば私も、もうすぐ350回の唱和達成者です。社訓の1つに“われわれは日々の経験の中から己の感性を磨き人間性を向上し続けます。”があります。今回は、日常の出来事を通じて私が感じたことを紹介させて下さい。

先日、社用車の中で流れるラジオ番組で、リスナーからのリクエスト曲として、竹内まりやさんの「いのちの歌」が流れました。10年以上前の曲で、卒業式などでも歌った方もいらっしゃるかと思いますが、私が竹内まりやver.を聞いたのはこの時が初めてで、その歌詞がかなり心に刺さりました。心に響く歌い手の方だと、改めて思いました。

♪この星の片隅でめぐり会えた奇跡は、どんな宝石よりもたいせつな宝物。♪

♪生まれてきたこと、育ててもらえたこと、出会ったこと、笑ったこと、そのすべてにありがとう。♪

後で気になって調べてみると、「生かされていることへの感謝を歌で表現したかった」とご本人が話しているエピソードが出てきました。

SNSの広がりにコロナ禍も重なり、問題となっている「誹謗中傷」。活字による暴力で、心を痛めた当事者が、自らの命を絶ってしまうニュースを見ると、本当に心が痛みます。口頭で発する言葉と違い、活字はニュアンスが伝わりづらい分、投稿する側はより慎重な言葉選びが必要です。

「そんなつもりじゃなかった。」

もしかしたら、本当にそうだったかもしれません。でも、誤解を与えてしまうかもしれないと、投稿前に読み返すことは必要です。

仕事上でも、電話だけではなくメールなどの活字で対応することも多くあります。もちろん、相手を否定するような言葉は使いませんが、支離滅裂にならないよう簡潔な言葉選びを心がけていても、お客様に勘違いや思い違いをさせてしまうことはあります。そのたびに言葉が足りなかったと反省し、次回の言い回しを変えています。

日常でも、フォローする相手のインスタグラムやブログにコメントをすることもありますが、SNSは限られた文字数内で表現をしなければならない点で、かなりの言語能力が求められると感じています。

今月の7日に、侮辱罪の厳罰化の改正が施行されました。「拘留(1日以上30日未満)か科料(千円以上1万円未満)」とされていた法定刑に「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」が追加され、公訴時効が1年から3年に延長されたことで、長期間かかる投稿者の特定作業後の立件にも余裕ができると期待されます。

侮辱罪とは、「事実の適示」をしなくても、不特定多数に知られる公の場で、人(法人を含む)を侮辱した場合に成立するとされています。

「誹謗中傷」により問われる罪には、名誉棄損罪もありますが、こちらは不特定多数に知られる公の場で、社会的名誉が侵害されていること、そして「事実の適示」があったかどうかの判断がされます。

「事実の適示」は普段聞き慣れない言葉ですが、“真実かどうかに関わらずその表現の内容が本当のことかのように伝えていること”とされています。

労務関係の立場からは、会社に対する不満をつぶやくことでも「誹謗中傷」に繋がる可能性は考えられますので、“SNSは不特定多数に知られる公の場である“ことを自覚して利用していただきたいと思います。

目の前(ネットの先)に大勢の人が居る(見ている)実感が湧きづらい分、多少なりとも気が大きくなってしまう可能性もあります。口頭とは違い、簡単に拡散できるという便利さが逆に深刻なダメージを与える方向へ進んでしまう可能性もあるわけです。「誹謗中傷」が発覚した場合は、社内の懲戒規程に当てはめて処分を検討することはもちろんですが、社労士の管轄外のところでは、名誉棄損罪や侮辱罪として刑事責任を問われる可能性もあります。

しかしながら、法律が厳罰化されたから“やってはならない”のではなく、なぜ法律が改正されるに至ったのかを考えることは大切です。

今回の侮辱罪の厳罰化も、発端は投稿者に科された「科料9千円」の略式命令が軽過ぎるとの批判があったからではあります。しかし、事件後もインターネット上の「誹謗中傷」はあらゆるところで行われ、残念ながら法改正後も続いていると言われています。“人の尊厳は守られるべきであり、人はお互いを尊重しあうべき”なのに、“誹謗中傷の歯止めが効かなくなったから、法律を改正し、より厳しく罰せざるを得なくなった”のです。

SNSを利用するときは、軽はずみな気持ちで投稿するのではなく、相手を傷つけるような言葉遣いに注意して、美しい言葉を活字で贈りませんか。皆さんがフォローしている芸能人や、実際には会ったことのない世界中のフォロワーに対しては、同じ時代に生きていること“生かされいることへの感謝”をし、SNSで繋がれたことを♪この星の片隅でめぐり会えた奇跡♪と感じられれば、不必要な批判やあおりは減っていくのではないでしょうか。

当社では、新入社員はまず社訓を暗記をして、朝礼で披露することが慣例です。私も始めは助詞の一語まで丸暗記することに注力していましたが、毎週唱和を重ねることで、社訓の意味を考えられる余裕も徐々に出てきました。

棒読み唱和になることなく、社員の心に響くような社訓浸透の必要性は、今また注目を集めています。皆さんの会社の社訓は、どんな意味が込められていますか。

当社に先月起きた♪この星の片隅でめぐり会えた奇跡♪については、来週のコラムをお楽しみに…

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