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ビル賃貸業で家賃滞納や空室、担当者に賠償責任?

   

ビル賃貸業で賃料滞納や空室が続き、担当者が誓約書に基づく損害賠償責任を負うか争った。担当者であった元従業員は自らの賃料横領の賠償を含む約770万円の返還を求めた。一審(京都地判平成26.12.25)は、未払時間外手当と付加金のみを認め、返還については棄却した。それに対して、原告と被告が控訴した。

【判決のポイント】

大阪高裁は平成28年4月15日に、滞納等は当然予想される損害で、多額の支払いを原告が真意で約束するとは考え難いとして、不当利得返還請求権に基づき48万円の返還請求を認めたが、横領は事実と推定でき約622万円の支払い約束は有効とした。

労働者に賠償義務が生ずる場合(茨城石炭商事事件<最一小判昭和51年7月8日>)は、「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平は分担という見地から信義則上相当と認められる程度において、被用者に対し損害の賠償又は求償の請求をすることができる。また、本件においては、労働者に対して賠償及び求償を請求しうる範囲は、信義則上損害額の4分の1を限度とするべきである。」としている。

ただ、下級審(エーディーディー事件<京都地判平成23年10月31日>)は、労働者が使用者に対し直接に損害を与えた事案において、責任制限の根拠を、「労働者のミスはもともと企業経営の運営自体に付随、内在化するものであるといえる(報償責任)し、業務命令内容は使用者が決定するものであり、その業務命令の履行に際し発生するであろうミスは、業務命令自体に内在するものとして使用者がリスクを負うべきものであると考えられる(危険責任)」としている。

関連事案として、労働者の退職金債権と使用者の労働者に対する債権とを相殺する合意は有効か。について、日新製鋼事件(最二小判平成2年11月26日)は、「労働者がその自由な意思に基づき相殺に同意した場合においては、同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、同意を得てした相殺は規定に違反するものとはいえないと解するのが相当である」としている。

【SPCの見解】

損害を引き起こした労働者の行為態様いかんでは、1.懲戒処分、2.損害賠償請求、3.人事上の措置を同時に実施することが可能であることを示唆する事案といえる。特に賠償請求権と賃金の相殺をするためには、天引きではなく、労働者からの現金による支払いが「労働者の自由な意思に基づく同意」との判断につながる可能性が高いといえる。ただ、その請求できる額は、報償責任・危険責任の観点から本来的に使用者が負担するべきリスクと考えれば、25%程度が限界との認識は必要である。

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